ピエタ(英語表記)Pietà

精選版 日本国語大辞典 「ピエタ」の意味・読み・例文・類語

ピエタ

〘名〙 (Pietà 原義は、敬虔、信仰敬愛) キリスト教美術で、死んで十字架から降ろされたキリストを、聖母マリアが膝に抱いて哀悼する絵画、彫刻主題。一四世紀初頭ドイツに始まる。バチカンのサンピエトロ大聖堂内のミケランジェロの彫刻が有名。

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デジタル大辞泉 「ピエタ」の意味・読み・例文・類語

ピエタ【〈イタリア〉Pietà】[彫刻]

ミケランジェロの彫刻作品磔刑に処されたキリスト遺体を抱きかかえ、嘆き悲しんでいる聖母マリアモチーフとする。バチカン、サンピエトロ大聖堂所蔵。サンピエトロのピエタ。

ピエタ(〈イタリア〉pietá)

敬虔けいけんの心、慈悲心の意》キリストの遺体を膝に抱いて嘆き悲しむ聖母マリアを表す絵画・彫刻の主題。嘆きの聖母像
[補説]作品名別項。→ピエタ

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改訂新版 世界大百科事典 「ピエタ」の意味・わかりやすい解説

ピエタ
Pietà

死せるイエス・キリストを膝に抱いて嘆き悲しむ聖母マリア像。14世紀初頭にドイツで創出された新しい図像で,埋葬する前にわが子を抱きしめて最後の別れを告げる聖母を,説話の時間的・空間的関係から切り離して独立像に仕立てたもの。中世末期に出現したいわゆる〈アンダハツビルトAndachtsbild(祈念像)〉の一つで,個人が自己の魂の救済を願ってその前で祈ることを目的として作られた。ドイツでは〈フェスパービルトVesperbild(夕べの祈りの像)〉と呼ばれ,これは埋葬の祈りが聖金曜日の夕べにささげられることに由来する。この像の成立の経緯はつまびらかではないが,H.ゾイゼなど神秘主義者の著作との関係がしばしば指摘されている。また,造形的には,死せるキリストが幼子のように小さい作例もあることから,この像は聖母子像の幼子をキリストの遺骸に置き換えることによって生まれたのではないかとも考えられる。聖母の悲痛な表情,硬直したキリストの肉体のなまなましい聖痕は,見る者に苦痛と悲しみの感情を呼び起こさずにはいない。イタリアでは15世紀以降作例が見られるようになり,〈ピエタ〉(〈哀れみ〉の意)と名づけられた。ミケランジェロの《バチカンのピエタ》(1500ころ)は伝統的な図像にのっとりながら,若く美しい聖母と理想化された肉体をもつキリストによって,この主題にまったく新たな表現を与えている。しかし晩年の《ロンダニーニのピエタ》(1564ころ。未完)に至ると,聖母とキリストは垂直に重なる独自の群像を形づくることになる。絵画においても,フランスの逸名の画家の名作《アビニョンのピエタ》(15世紀末)など多くの作例がある。ピエタは原則として聖母とキリストの2人の像であるが,福音書記者ヨハネ,マグダラのマリアや聖女たちなど〈キリストの哀悼〉に登場する人物や寄進者が加わることもある。ルネサンス以降,キリストが聖母の膝の上ではなく,足元に横たわる,より自然な構成も用いられるようになった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピエタ」の意味・わかりやすい解説

ピエタ
ぴえた
Pietà イタリア語

キリスト教美術において、キリストの遺体を膝(ひざ)の上に抱き悲嘆に暮れている聖母マリアの姿を表した礼拝図像のこと。この「ピエタ」をもとにした、多くの人物で構成された「哀悼」とよばれる物語図像と区別される。「ピエタ」ということばは「敬虔(けいけん)な同情」という意味のイタリア語で、語源はラテン語のピエタスpietas(敬虔)である。しかし、この図像そのものは、元来イタリアで形づくられたものではなく、1300年ごろライン地方の諸修道院で礼拝像の一形式として成立したものである。それは、キリストの死去を記念する「聖金曜日」の礼拝の対象として使用され、ドイツではこの種の礼拝像をベスパービルトVesperbild(晩課祈祷(きとう)像)と称した。

 14世紀にさかのぼるドイツ彫刻の「ピエタ」の場合、聖母マリアの悲痛に満ちた表情やキリストの傷痕(しょうこん)に覆われた裸身の描写など、しばしば非常に写実的に取り扱われた。この人間的悲哀を強調する主題は、14世紀末に全ヨーロッパを襲った大疫病や百年戦争の災厄が引き起こした熱烈な宗教感情の展開と結び付いて広く世に流布し、15世紀から16世紀にかけてフランスやイタリアまで普及し、数多くの名品が制作された。たとえば、ルーブル美術館の『アビニョンのピエタ』はフランス・ゴシック絵画の傑作であり、イタリア・ルネサンスの巨匠ミケランジェロの「ピエタ」三部作(バチカンのサン・ピエトロ大聖堂、フィレンツェ大聖堂、ミラノのカステロ・スフォルツェスコ)は賛嘆すべき崇高な作品として名高い。しかし、三部作のうち『ロンダニーニのピエタ』とよばれるミケランジェロ晩年の作品では、聖母マリアは直立し、死せるキリストの遺体を背後から支えており、正統的な図像から離れ、新しい解釈が持ち込まれている。

[大築勇喜嗣]

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百科事典マイペディア 「ピエタ」の意味・わかりやすい解説

ピエタ

キリスト教美術の主題の一つ。イタリア語で〈慈悲〉〈愛憐〉の意。キリストの降架後,死体をひざの上に抱いて哀悼するマリアを表現するもの。中世末からルネサンス期の彫刻・絵画に多くみられ,彫刻ではミケランジェロ,絵画ではボッティチェリなどの作品が有名。
→関連項目セバスティアーノ・デル・ピオンボバルトロメオペルジーノ

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旺文社世界史事典 三訂版 「ピエタ」の解説

ピエタ
pietà

イエスの死体を抱いて悲しむ聖母マリアの図または像
イタリア語で「あわれみ」の意。多くの画家・彫刻家の作品があるが,ローマのサン−ピエトロ大聖堂にあるミケランジェロのものが最も有名。

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デジタル大辞泉プラス 「ピエタ」の解説

ピエタ

大島真寿美の小説。2011年刊行。18世紀ヴェネツィアを舞台とする歴史ミステリー。2012年、第9回本屋大賞にて3位入賞。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ピエタ」の意味・わかりやすい解説

ピエタ

キリストの哀悼」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のピエタの言及

【マリア】より

…とくに,息絶えたわが子を膝の上に抱いて嘆き悲しむ聖母の姿は,西洋の中世末期に至って独立した主題として彫刻となり画像となった。いわゆるピエタで,それがラインラントを中心としてヨーロッパ各地に広がり,《アビニョンのピエタ》,ミケランジェロの《バチカンのピエタ》などの名作を生んだ。 マリアの晩年の図像には,〈キリストの昇天〉〈聖霊降臨〉に登場するほか,マリアを主役とする図像に〈聖母の死〉(〈聖母の眠りDormitio〉),〈埋葬〉〈被昇天〉〈聖母の戴冠(たいかん)〉と続く。…

※「ピエタ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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