ピット(大)(読み)ぴっと(英語表記)1st Earl of Chatham, William Pitt, the Elder

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピット(大)」の意味・わかりやすい解説

ピット(大)
ぴっと
1st Earl of Chatham, William Pitt, the Elder
(1708―1778)

イギリスの政治家。インドで財をなしマドラス総督となったトマス・ピット(通称「ダイヤモンド・ピット」)の孫。イートン校、オックスフォード大学に学び、1735年に下院議員となった。野党に加わり、王家がハノーバー出身であるためにイギリスの外交政策がゆがめられていると政府を攻撃し、「愛国派」として人気を博した。しかしそのために国王ジョージ2世に嫌われ、ようやく1746年になって閣外のポストを与えられた。人事をめぐる争いから1755年に更迭されたが、「七年戦争」の勃発(ぼっぱつ)によって世論が彼の政権入りを望むに至り、1756年12月に国務相となり戦争を指導する地位についた。翌1757年いったん辞任したが、同年7月に国務相に返り咲き、ニューカッスル内閣下で事実上の首相としてイギリスを勝利に導いた。とくにインド、北アメリカなど海外植民地でフランスの勢力を破り、イギリス帝国の基礎を築いた。しかしジョージ3世の即位(1760)以後、自説が内閣で受け入れられなくなると、1761年に下野した。1766年にはチャタム伯に叙され、王璽尚書(おうじしょうしょ)として事実上首相を務めたが、病気のために十分な政治指導力を発揮することができず、2年後には辞任のやむなきに至った。その後、本国とアメリカ植民地の関係が悪化すると、ノース政府の強圧政策に強く反対した。1778年、上院で演説中に倒れ、まもなく死去した。雄弁で知られたホイッグ党の大政治家であったが、政界では孤立していた。

青木 康]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ピット(大)」の意味・わかりやすい解説

ピット(大)
ピット[だい]
Pitt, William, 1st Earl of Chatham

[生]1708.11.15. ウェストミンスター
[没]1778.5.11. ケント,ヘイズ
イギリスの政治家。 R.ピットの子。ピット (小) の父。オックスフォード大学,ユトレヒト大学で学んだのち,近衛騎兵連隊の将校任官。 1735年下院議員になり,R.ウォルポール首相の施政を攻撃し,雄弁家としての名声を確立,ウォルポール退陣 (1742) 後頭角を現し,46年2月アイルランド副会計官,2ヵ月後ウォルポールの後継者 H.ペラム内閣の軍事支払 (陸軍主計) 総監に就任。買収されて政府攻撃を弱めたと非難を受けると,軍事支払総監のすべての特権 (軍の資金を個人的利益をはかるために投資してよい) を放棄するとともに,部内刷新を行い,巨富を築いた前任者とは違い,清廉にして有能な軍事支払総監として名を揚げた。七年戦争 (56~63) 開戦とともに国務相になり,一時解任されたが,ニューカッスル (公)との連立内閣を組織し (57) ,事実上の首相として戦争を指導。 61年国王ジョージ3世がビュート伯を登用して対スペイン戦争を拒否すると,国務相を辞職。 66年チャタム伯に叙せられ,ロッキンガム侯辞任のあとをうけて再び内閣を組織したが,精神に異常をきたしたため政務を離れ (68) ,以後 10年間,グラフトン公らの政治グループを通して元老的存在となった。北アメリカ十三植民地の独立に対しては,強い反対の態度を示した。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ピット(大)」の解説

ピット(大)(ピット(だい))
William Pitt, 1st Earl of Chatham

1708~78

イギリスの政治家。インド成金の孫。オクスフォード大学で学び,1735年下院議員となり,ウォルポールの対外政策と軍事政策を批判して名をあげ,七年戦争時には国務相として入閣し,事実上の首相として戦争を指導。プロイセンフリードリヒ2世に軍費を与えてヨーロッパで戦わせ,みずからは北アメリカとインドにおけるフランスとの交戦に全力を注ぎ,圧倒的な勝利を収めて帝国の基礎を固め,「大平民」と呼ばれて国民の人気を博した。66年グラフトン公とともに組閣したが,チャタム伯となって貴族院に移り,病を得て辞職。アメリカ植民地には同情的であったが,その独立には反対の姿勢をとり,貴族院での演説中に倒れ,まもなく死亡。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「ピット(大)」の解説

ピット(大)
William Pitt

1708〜78
イギリスの政治家
1735年下院議員となり,56年に入閣。反ウォルポール陣営の闘士として頭角を現す。その間,七年戦争でフランスに対抗し,新大陸・インドで植民地拡大につとめた。1766年内閣を組織し,同年チャタム伯として上院に列した。晩年は病をおしてアメリカ植民地問題の調整に努力し,登院して演説中倒れた。

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