ファイン・ケミカル(読み)ふぁいんけみかる(英語表記)fine chemical

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファイン・ケミカル」の意味・わかりやすい解説

ファイン・ケミカル
ふぁいんけみかる
fine chemical

高機能、高付加価値精密化学製品を製造する工業。大量生産のヘビー・ケミカルheavy chemicalに対することばとして使われてきた。

 石油化学コンビナートに代表されるように、化学工業ではコスト・ダウンを目的として、大規模装置で少品種多量生産が行われている。製造は、集中制御によるフロー・システムで連続生産が行われ、制御装置の監視要員や保安要員などの少人数操業されているが、広大なプラント用地や巨大な装置に対する多額の設備投資が必要となる。また化学工業は、合成樹脂合成繊維合成ゴムなど、あらゆる分野への原材料を生産し、多彩な消費財を提供して第二次世界大戦後の国民経済の高度化に貢献してきた。しかしオイル・ショック以降、国民に浪費への反省や環境汚染への批判が生じ、「かけがえのない地球」資源やエネルギーの有効利用を図る考え方が醸成されてきた。ファイン・ケミカルはこのようなヘビー・ケミカルに対するアンチテーゼとして用いられてきた。この分野は、医薬品農薬化粧品、染料、塗料、印刷インキ、界面活性剤、写真感光材料、接着剤、食品や飼料用の添加物、香料、試薬、高分子凝集剤、プラスチック用や石油製品の各種添加剤など多種多様である。大半は産業向け中間製品であるが、高強度エンジニアリング・プラスチックとその接着剤、工業用防菌・防カビ剤、分離・精製用イオン交換樹脂、機能性塗料・色素、自動車排ガス触媒、半導体、フラットパネルディスプレー、ブルーレイディスク用有機色素、プリンター、タッチパネル、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、燃料電池および太陽電池用など、さまざまな先端的分野の製品群に利用されている。

 これらの製品群は、独自の機能性を目的に開発されることも多く、この観点からスペシャリティ・ケミカルとよばれることもある。

 ファイン・ケミカルの特徴としては、以下の点があげられる。

(1)多品種少量生産。

(2)多種、複雑な生産工程による高付加価値の追求。主としてバッチ・プロセス(非連続的な回分式操作)の採用。

(3)操業には多数の人員が必要。とくに基礎反応の研究など高度の技術者が必要。

(4)巨大な装置を用いず、プラント用地に広大な面積が不要。

(5)小資本で操業でき、原材料の浪費抑制に貢献、価格維持が容易で収益性が期待しうる。

 ヘビー・ケミカルでは新興工業国が独自に内需をまかないつつある現在、資源に乏しい日本の化学工業では機能性化学に期待が集まっており、ファイン・ケミカル分野での研究開発と貢献が求められている。

[大竹英雄]

『永井芳雄他著『増補 ファインケミカルズの化学と工業』全3巻(1981・化学工業社)』『飛田満彦・内田安三著『ファインケミカルズ』(1982・丸善)』『シーエムシー編・刊『ファインケミカル事典』(1982)』『田島慶三著『「ケミカルビジネスエキスパート」養成講座――新「化学産業」入門』(2010・化学工業日報社)』『化学工業日報社編・刊『日本のファインケミカル企業』(2011)』『シーエムシー出版編・刊『ファインケミカル年鑑』2013年版(2012)』『化学業界研究会編『化学』2013年度版(2012・産学社)』『化学工業日報社編・刊『化学工業年鑑』各年版』

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百科事典マイペディア 「ファイン・ケミカル」の意味・わかりやすい解説

ファイン・ケミカル

精密化学製品とも。固有の技術に裏づけられた加工度・付加価値の高い化学工業製品のこと。医薬品,合成染料,香料,化粧品,写真感光材料などがこれに該当する。こうした分野の研究・開発を目的とした化学はファイン・ケミストリーfine chemistryとよばれる。

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