ファッション写真(読み)ふぁっしょんしゃしん(英語表記)fashion photography

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファッション写真」の意味・わかりやすい解説

ファッション写真
ふぁっしょんしゃしん
fashion photography

服飾装身具デザインとその流行、ならびにそれらと結び付いた生活風俗などを主題とする写真をいう。モード写真ともいう。ファッションfashion(流行の意)はいつの時代にも美意識や生活感覚が象徴的に表現される時代精神のメッセージであるが、ファッション写真はそれを的確に写真映像としてとらえ、さらに出版ポスターなどの印刷メディアと結び付ける役割を担っている。歴史的には1850年代から1860年代にかけてのフランスで、裕福な層の女性たちの肖像衣装が、当時流行していた名刺判写真(カルト・ド・ビジット)などで紹介され、頒布されたことに始まる。

 ファッション写真が最初に印刷されたのは、1880年フランスのファッション雑誌『ラール・エ・ラ・モード』で、ルーランジェー兄弟Charles Reutlinger(1816―1880)、Emile Reutlinger(1825―1907)はその時代の草分けのファッション写真家として知られている。本格化するのは出版文化が大衆化する20世紀に入ってからであり、またシャネルやスキャパレリElsa Schiaparelli(1890―1973)ら斬新(ざんしん)なデザイナーの登場とオートクチュール(高級仕立て服)の流行が、その発展を促した。アメリカでは『ハーパーズ・バザー』(1867創刊)や『ボーグ』(1892創刊)を中心に、バロン・ド・メイヤーBaron De Meyer(1868―1949)やエドワード・スタイケンが活躍し、モデルにも有名スターが登場している。1920年代から1930年代にかけては、セシル・ビートン、ジョージ・ホイニンゲン・ヒューネGeorge Hoyningen-Huene(1900―1968)、マーチン・ムンカッチMartin Munkacsi(1896―1963)らが活躍した。出版文化の爛熟(らんじゅく)とともに、ファッション写真家はつねにアート・ディレクターと共同で制作作業を行うようになり、ときとしてスナップやドキュメンタリーの手法も導入されて、静止的なポーズだけではなく動的な表現が加えられるようになる。第二次世界大戦後のアメリカでは著名なアート・ディレクター、アレクセイ・ブロードビッチAlexey Brodovitch(1898―1971)が時代の先端を走り、彼のもとで仕事をした写真家としては1950年代と1960年代をアービング・ペンが代表し、1960年代から1970年代にかけてはリチャード・アベドンが目覚ましい活躍をした。

 日本では1960年代から本格的に始まり、秋山庄太郎(しょうたろう)、大竹省二(しょうじ)、中村正也(まさや)らがこの時期の代表的なファッション写真家であり、つづく高度成長期には数多くのファッション雑誌が創刊され、佐藤明(あきら)(1930―2002)、立木義浩(たつきよしひろ)、横須賀功光(よこすかのりあき)、篠山紀信(しのやまきしん)らが活躍した。

[重森弘淹・平木 収]

『A・リーバーマン解説『世界写真全集9 ファッション・フォトグラフィ』(1983・集英社)』『G・モラ著、青山勝・小林美香・佐藤守弘・前川修監訳『写真のキーワード――技術・表現・歴史』(2001・昭和堂)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ファッション写真」の意味・わかりやすい解説

ファッション写真
ファッションしゃしん
fashion photography

モード写真ともいう。ファッション・デザインの流行を紹介する写真であるが,広告のために撮影されるものも多い。 1893年アメリカの服飾誌"Vogue"の創刊4号に掲載された J.L.テーラーの写真が最初といわれる。 20世紀に入って E.スタイケンが近代的作風を確立し,女性ジャーナリズムに必須の写真分野となった。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のファッション写真の言及

【スタイケン】より

…第1次世界大戦中にはアメリカ空軍の航空写真班として従軍,その体験は写真のもつ機能というものにさらに眼を開かせることとなった。のち《ボーグ》《バニティ・フェア》を出版していたコンデ・ナスト社の写真部長に就任,数多くのファッション写真を撮り,斬新なスタイルを打ち出して活躍した。第2次世界大戦後はニューヨーク近代美術館の写真部長に就任,1954年には,世界各国の一流の写真家の作品を集めて,人類の幸福と不幸を壮大な規模で示す一大写真展〈ザ・ファミリー・オブ・マン(人間家族)〉をディレクトした。…

【ビートン】より

…イギリスの上流階級に生まれたビートンは,写真家としてだけではなく画家,舞台美術家,著述家,俳優などとしても才能を発揮した多才な人物であった。写真には子どものころから親しんでいたが,1930年代にはファッション写真家として活躍するようになった。《ボーグ》《ハーパーズ・バザー》などの雑誌に発表した写真は,華麗で幻想的な独特の演出によるもので,新しいファッション写真のスタイルを作り出している。…

※「ファッション写真」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android