ファントホフ(英語表記)van't Hoff, Jacobus Henricus

精選版 日本国語大辞典 「ファントホフ」の意味・読み・例文・類語

ファント‐ホフ

(Jacobus Henricus van't Hoff ヤコブス=ヘンリクス━) オランダの化学者。初めて炭素化合物正四面体構造を考え、立体化学の基本概念を確立した。また、化学平衡浸透圧に関する学説樹立著書原子排列」により、一九〇一年ノーベル化学賞受賞。(一八五二‐一九一一

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改訂新版 世界大百科事典 「ファントホフ」の意味・わかりやすい解説

ファント・ホフ
Jacobus Henricus van't Hoff
生没年:1852-1911

オランダの化学者。立体化学および物理化学の創始者。1901年第1回ノーベル化学賞受賞者となる。開業医の子としてロッテルダムに生まれる。初めデルフトの工業学校で技術教育を受けるが,純粋化学を志し,1871年ライデン大学に入学する。ここでは,将来の化学の基調とするため主として数学を学び,ボン大学でF.A.ケクレ,パリ大学でC.A.ビュルツに師事して化学を修め,74年帰国。獣医学校の講師をへて,77年アムステルダム大学講師,翌年教授となる。1874年学位修得の直前に発表した論文で,炭素原子価の正四面体構造を提唱して,不斉炭素原子の概念を導き,立体化学の基礎を築いた。その後,熱力学の研究に着手し,84年出版した《化学動力学の研究》で,反応速度論,化学平衡論,化学親和力に熱力学をひろく適用し,化学反応の基本理論を体系化した。87年には,浸透圧の実験から,気体と希薄溶液の類似性を見いだし,溶液論を確立し,理論化学に大きな貢献をもたらした。96年ベルリン大学教授としてドイツに招かれてからは,シュタスフルトの岩塩鉱床の成因を相律的な観点から研究した。また,1887年には彼とならんで物理化学の建設者として名高いF.W.オストワルト,S.A.アレニウスと協力して《物理化学雑誌Zeitschrift für Physikalische Chemie》を創刊
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ファントホフ」の意味・わかりやすい解説

ファントホフ
van't Hoff, Jacobus Henricus

[生]1852.8.30. ロッテルダム
[没]1911.3.1. ベルリン
オランダの物理化学者。ライデン大学卒業後,ボン大学で F.ケクレに,パリ大学で C.ウュルツに化学を学び,アムステルダム大学講師 (1877) を経て,同大学教授 (78) 。のちベルリンのプロシア科学アカデミー (ベルリン大学) の教授に就任 (96) 。 1874年に炭素原子の正四面体構造説を発表して,立体化学の基礎を据え,化学平衡の理論,とりわけ質量作用の法則を明らかにし,化学親和力の理論を確立 (83) 。また化学反応速度論,溶液の浸透圧と蒸気圧降下の関係についての理論 (→ファントホフの浸透圧の法則 ) など,化学熱力学の発展に大きく貢献。ほかにシュタッスフルトの岩塩層の相律に基づく研究により,その成因を明らかにしたことでも知られる。 87年 W.オストワルトおよび S.アレニウスとともに物理化学専門誌"Zeitschrift für physikalische Chemie"を創刊。 1901年ノーベル化学賞受賞。

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世界大百科事典(旧版)内のファントホフの言及

【化学】より

…天然産のものに比べて安価で品質が一定していた合成染料はほどなく市場から天然産染料を駆逐し,化学工業時代の幕が開いた。 もう一つの大きな飛躍はJ.H.ファント・ホフとル・ベルJ.A.Le Bel(1847‐1930)によってなされた。彼らの唱えた炭素正四面体説(1874)は,分子内の原子の配列を三次元的にとらえる立体化学の基礎となった。…

【光学異性】より

…このように,不斉炭素原子は光学活性をもつための十分条件ではない。J.H.ファント・ホフとJ.A.ル・ベルは光学活性と分子の構造を議論した際,アレンのように不斉炭素のない系でも光学異性がありうることを予言したが,その予言は1936年メートランドP.Maitlandらによって確認された。不斉軸をもつ化合物の一群はそれ以前に発見されている。…

【有機化学】より

…これによって,有機化学は脂肪族,芳香族の二つの流れをたどることになった。J.H.ファント・ホフとJ.A.ル・ベルによる炭素正四面体説の提出は,この建設期の掉尾を飾る発見であった。この後の約50年,有機化学の発展の第2期は,人名反応の時代といえよう。…

※「ファントホフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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