フェルミ分布(読み)フェルミブンプ

化学辞典 第2版 「フェルミ分布」の解説

フェルミ分布
フェルミブンプ
Fermi distribution

フェルミ統計にもとづく状態の数W{nj}から,系の全粒子数一定,

エネルギー一定,

の条件のもとに平衡分布{nj*}が次のように求められる([別用語参照]量子統計力学).

ただし,kボルツマン定数Tは絶対温度,Δj はエネルギー準位 εj にある状態の数,μは粒子数一定という条件から決まるパラメーターで,化学ポテンシャルに等しい.この分布をフェルミ分布またはフェルミ-ディラック分布という.μが正でkTに比べて十分大きい値をとるとき,フェルミ気体としての特徴がもっともよく現れる.フェルミ分布関数

f(ε) = {e(εμ)/kT + 1}-1

は,図のような形で示される.

フェルミ分布の場合,化学ポテンシャルμをフェルミ準位またはフェルミ-ポテンシャルということが多い.絶対温度T = 0 K の極限では,領域ε < μでf(ε) = 1,ε > μでf(ε) = 0となる.これはフェルミ統計では,粒子は一つの状態に1個しか入れないので,エネルギーの低い準位から順に入り,ε = μのエネルギー準位までで全部の粒子N個がおさまってしまうことを示す.状態密度g(ε)を用いて,

から,

と決められる(hプランク定数mは粒子の質量Vは系の体積).

T0 = μ/k
で定義される温度をフェルミ温度あるいは縮退温度という.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フェルミ分布」の意味・わかりやすい解説

フェルミ分布
フェルミぶんぷ
Fermi distribution

温度が T のとき,フェルミ統計に従う粒子がエネルギー ε の状態にある確率,またはこの状態にある粒子の平均数は次式で与えられる。

f(ε)=1/{ exp [(ε-ζ)/kT]+1}

この式で表わされる分布をフェルミ分布といい,ζ をフェルミエネルギーという。 kボルツマン定数。温度が低いとき,この分布では,エネルギーが ζ 以下の状態は粒子によって完全に占められ,ζ 以上の状態には粒子がほとんどない。すなわち,ζ は粒子がもつ最大のエネルギーであって,粒子の化学ポテンシャルに等しく,固体電子論で重要な役割を演じる。また十分に温度が高ければ,フェルミ分布は古典的な気体分子運動論におけるマクスウェル=ボルツマン分布に等しい。

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法則の辞典 「フェルミ分布」の解説

フェルミ分布【Fermi distribution】

フェルミ‐ディラック分布関数」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のフェルミ分布の言及

【フェルミ=ディラック分布】より

…量子状態jを占めている粒子の数njを観測すれば,1回の観測では0または1であるが,粒子集団が絶対温度Tの熱平衡にあれば,粒子数の平均値は,で与えられる。これをフェルミ=ディラック分布,または単にフェルミ分布Fermi distributionという。ここにkはボルツマン定数,μは化学ポテンシャルで,後者は〈n1〉+〈n2〉+……が粒子の総数に等しくなるという条件で決まる。…

※「フェルミ分布」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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