フォスター(Norman Foster)(読み)ふぉすたー(英語表記)Norman Foster

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

フォスター(Norman Foster)
ふぉすたー
Norman Foster
(1935― )

イギリス建築家。マンチェスターに生まれる。1961年、マンチェスター大学卒業。都市計画および建築を専攻する。その後、アメリカのエール大学建築学科修士課程に留学。在米時には、アメリカの東西両海岸で都市開発事業のコンサルタントを行う。63年に帰国し、同年リチャード・ロジャーズらとともにチーム4を設立。67年、フォスター・アソシエーツを設立。フォスターの作品は、大胆な構造の採用とそれらの明快な可視化によって特徴づけられるものが多い。そのため、80年代までは、リチャード・ロジャーズやレンゾ・ピアノといった建築家と同一のカテゴリーに入れられて、ポスト・モダニズムの一系列をなす「ハイテク・デザイン」と称されることが多かった。視覚的にはフォスターの作品は、ハイテクノロジーを駆使したメカニカル表情をもつように見えるからである。しかし、彼の作品群は、そうした表層的な「ハイテク・デザイン」というよりも、さまざまなシステムが統合された建築が目指されている。

 フォスターの初期の代表作としては、イングランド東部のノリッジに建つセインズベリー・センター(1978)がある。大学の付属施設であるこのセンターは、立体トラス三角錐スチールの構造物を、同方向につなぎ合わせたもの)によって構成されたダブルスキンの構造体が全体の空間を規定しており、そのダブル・スキンの内部において設備や構造、採光といった機能的要求等が統合的に処理されている。また、中期の代表作であるイギリス・ルノー社配送センター(1983、ウィルトシャー県)では、鉄骨による単一の構造体をそれぞれマストによって吊り下げ、それらを連結することによって軽快で大胆なテンション構造(引張力によって全体の荷重を支える構造体)を実現させている。83年、RIBA(英国王立建築家協会)より、ゴールド・メダルを授与される。その後、フォスターの名を一躍世界に知らしめることになる建築が実現する。香港上海銀行本社(1985)である。20世紀後半においてもっとも話題になったこの建築は、高さ180メートル、地上47階建ての超高層ビルであり、79年の指名設計競技において入選し、具体化したものである。フォスターはここで吊り橋の基本的な考えを応用し、超高層の全体を5段に分節したうえで上部に吊り上げる、という工法を採っている。10層吹き抜けの開放的なアトリウム(中庭)とサスペンションによる大胆な構造、そしてガラスによる透明度の高い外観により、この建築は世界中の注目を集めることになった。フォスターはここで、繰り返し提唱してきた「インテグレイティッド・デザイン」という手法を徹底的に駆使している。彼のいう「インテグレイティッド・デザイン」とは、相反する方向をもつことの多い社会やテクノロジー、美しさ、経済、法律といった異なる次元の要求を一体化するために、建築にかかわる異なる専門分野の人々が協同し、情報を共有しつつプロジェクトを遂行していくことである。そのため、彼の事務所には構造、設備、電気、照明、等々の異なった専門分野のエンジニアが多数おり、建築家は彼らとともにアイデアの妥当性を検証し、実験を繰り返してプロジェクトを進めていくのである。

 90年前後からフォスターは、日本においても多くの作品をつくるようになる。その代表としては、東京湾を対象地とした、高さ840メートル、全170階からなる架空のプロジェクトである「ミレニアム・タワー」(1989)、巨大なアトリウムと2層ごとの吊り構造による東京のセンチュリー・タワー(1991)などがある。90年、ナイトの称号を受ける。94年、AIA(アメリカ建築家協会)ゴールド・メダル、2002年(平成14)世界文化賞受賞。90年代の代表作であるドイツのコメルツ銀行本社(1997、フランクフルト)では、高さ298メートルという超高層のビルの中心にアトリウムを配し、さらに周辺部分に4層分の広大なスカイガーデンを立体的に複数配置している。それによって新鮮な空気と自然光、および緑を、超高層ビルのなかへと三次元的に組み込み、サステイナブル・デザイン(持続可能なデザイン)の先がけをなす環境配慮型の建築を実現させている。

[南 泰裕]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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