フォトファブリケーション(英語表記)photo-fabrication

改訂新版 世界大百科事典 の解説

フォトファブリケーション
photo-fabrication

写真的技法を用いた精密加工技術の総称。印刷の写真製版技法として古くから利用されていたが,1960年ころ,カラーテレビジョンに用いるシャドーマスクやメサ型トランジスター用のマスクなどの製造に利用されるようになってから新しい加工技術として注目を集めるようになった。現在ではとくにエレクトロニクスの分野では欠かすことのできない技術となり,各分野で広範囲に利用されている。

 工程としては基板上に感光性をもつフォトレジスト層を設け,写真原版よりパターンを露光,必要部分を残して溶解除去し,エッチングまたはめっき方法により微細加工する(前者をフォトエッチング,後者をフォトエレクトロフォーミングという)。写真原版は希望する図柄伸縮の少ないフィルム上に拡大して描き,その原図を特殊な縮写用カメラで通常数百分の1の大きさに縮写し,多面付けして作成する。最近ではコンピューターを利用して直接希望寸法に多面作図したり,フォトレジストに直接露光描画する方法が多くなってきている。他の加工方法に比べ,比較的広い面積にわたって均一な微細加工ができ,かなり複雑な形状の加工が可能であり,ばりひずみ,加工硬化を生じないなど利点が多い。おもな用途としてはカラーテレビ用のシャドーマスクをはじめアパーチャーグリル,IC,LSI用リードフレーム,ファインメッシュなどの電子部品,電気かみそりの刃,フィルター,目盛板,光学用スリット,絞り,回折格子などの精密部品,プリント配線板など広い範囲にまたがっている。なかでも半導体集積回路の製造に関しては重要な役割を果たしており,LSIから超LSIへの発展の中心的な技術となっている。この分野の技術はマイクロリソグラフィーmicro lithographyと称されている。超LSIの高集積化が進むとともに素子の微細化も著しく,μmから0.1μmのオーダーの加工精度を得るために,露光する光として紫外光から遠紫外線,さらにはX線と短波長を,または電子ビームやイオンビームのような荷電粒子を用いるようになってきている。またマイクロリソグラフィーの技術として前出の二つの方法以外に薄膜技術を応用したリフトオフも用いられている。

加工を必要とする基板に,フォトレジストのパターンを形成した後,基板を溶解する溶液でエッチングして穿孔もしくはくぼみを作る方法である(図)。基板は多くは金属であるが,ガラスやプラスチックにも適用可能である。比較的厚い基板に穿孔する場合は,両面に位置を合わせてフォトレジストのパターンを形成し,両側からエッチングする方法がとられる。この場合は表裏のパターンを変えることによって,特殊な断面をもつような穿孔も可能である。エッチングの方法としては化学エッチング法と電解エッチング法があるが,そのほかにプラズマガス中で行われる乾式エッチング法も超微細加工に用いられている。

フォトレジストパターンの作成まではフォトエッチングと類似しているが,フォトエレクトロフォーミングの場合,基板としては導電性の平滑な基板であれば何でもよい。一般には銅板やガラスに導電性金属を蒸着したものが用いられている。めっき方法としては電気めっき法と化学めっき法があるが,レジストパターンを傷めずある程度の厚さまでめっきする方法としては電気めっき法が一般的である。レジストパターンの厚さに応じてある程度の厚さまでめっきした後基板より剝離し,さらに必要に応じて両側にめっきして厚さを増す方法を用いている。エッチング法より精度の高い微細加工ができるが,材質がめっき可能な金属であることと,厚さの限界が数十μmであるために用途が限られている。

フォトレジストのパターンを形成した後,全体に薄い膜を形成し,レジストパターンを除去することによりレジストのなかった部分のみに膜を残す方法をリフトオフ法という。蒸着膜のような薄い膜の高精度のパターン形成に適しているため,集積回路の製造工程などマイクロリソグラフィーの分野でよく使われている。

薄い塗膜状にして光エネルギーを与えると化学変化を生じ,ある溶媒に対し不溶性に変化するネガ型と,光エネルギーにより分解し,ある溶媒に対して可溶性に変わるポジ型とがあり,写真原版を通して光を与えることによりパターン形成ができる。残った皮膜は基板の加工に対し耐性をもっていて,基板加工の際その部分を保護する。ネガ型のほうが一般的で,印刷の製版で古くから用いられている水溶性のPVAやカゼイン,ゼラチン,グルー,卵白などに重クロム酸塩を加えたものが代表的なものである。そのほか樹脂自体に感光性を有するフォトポリマーを用いたものもあり,これらは有機溶剤で現像するものが多い。ポジ型はネガ型に比べるとフォトポリマーの種類は少ないが,精密加工に適しているため使用量は増加している。アルカリ溶液で現像するものが多い。そのほか電子ビーム,イオンビーム,遠紫外線,X線などに適性を合わせた専用のレジストも数多く開発されている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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