フクロウ(読み)ふくろう(英語表記)owl

翻訳|owl

改訂新版 世界大百科事典 「フクロウ」の意味・わかりやすい解説

フクロウ (梟)
owl

フクロウ目フクロウ科Strigidaeの鳥の総称,またはそのうちの1種を指す。なお,フクロウ科の鳥のうち,一般に羽角(うかく)(耳のように見える羽)のない種をフクロウ,羽角のある種をミミズクと呼ぶが,フクロウとミミズクの区別はまったく便宜的なものである。この羽角は単なる飾羽で,近縁種の間でも発達していたり,していなかったりする。フクロウ科は約22属123種からなり,南極大陸を除く全世界に分布し,ステップ,湿地,森林,岩山,ツンドラなど多様な環境に生息している。大きな頭の前面にどんぐり眼が並んでおり,眼のまわりは同心円状に硬い羽毛が生えていて,人間の顔のように見える。この部分のことをとくに顔盤(がんばん)といい,くびが短いことと合わせてこの類のきわだった特徴となっている。羽色は一般に暗褐色で濃淡の斑があり,目だたない。羽毛は柔らかく,獲物に気づかれないように音を立てずに飛ぶことができる。全長13~70cm。

 すべての種が生きた動物を捕食する。夜間に採食することが多く,昼の猛禽(もうきん)類であるワシタカ類に対し,夜の猛禽類の名がある。ただし,多くのフクロウ類は完全な夜行性ではなく,曇天の日などにはかなり活動する。餌は樹上または地上で活動するネズミなどの哺乳類のほか,小鳥,飛翔(ひしよう)中のコウモリ,昆虫などをとることが多いが,ヘビ,カエル,魚をおもに食べる種もある。獲物は必ず鋭い大きな足のつめでつかまえ,小さいものは丸のみに,大きなものは鋭くかぎ形に曲がったくちばしで引き裂いて食べる。羽毛や毛や骨などの不消化物は固めて吐き出す。これをペリットと呼び,ペリットの分析で食性を調査することができる。眼が前面に並んでいるので獲物までの距離を正確に判定することができ,また大きな眼の網膜は桿状体(かんじようたい)に富み,低い照度でもよく見ることができる。耳孔が非常に大きく,内耳の機構も鋭敏なので,聴覚も優れており,一部の種では,左右の耳孔の位置と大きさが違っているため,音源から音波が耳に達するわずかな時間差を利用して,獲物の位置と距離を判定することができる。この優れた視力と聴覚によって,夜間の捕食が可能になっており,おもに視覚に頼る種とおもに聴覚に頼る種とがあるが,いずれの種も状況に応じて双方の感覚を活用できる。

 つがいは1年を通じてなわばりをかまえる。つがいの形成と維持には鳴声が重要な意味をもち,雌雄が必ず鳴き交わす(デュエット)種もある。華やかな求愛行動は発達していないが,雄が雌に餌を与える求愛給餌は盛んに行う。営巣場所は,樹洞,樹枝上の古巣,岩棚を利用する種が多く,巣材はほとんど用いず,じかに産卵する。シロフクロウコミミズクのように地上に営巣するものもあり,アナフクロウは地下の穴に巣をつくる。また,メンフクロウのように納屋の屋根裏で営巣するものもいる。卵は白く無地で,ほぼ真球に近い。1腹の卵数はふつう2~7個。年に1回の繁殖がふつうだが,獲物が異常に多い年は2回繁殖し,1回の産卵数も多い。第1卵を産むと直ちに抱卵が始まるので,連日または隔日に産まれる卵は,そのぶんだけ孵化(ふか)が遅れ,獲物が少ない場合は早く孵化したものだけが育つ。雛の世話は雌雄ともに行い,巣立ち後の雛もしばらくは親の世話を受ける。大部分の種は留鳥か漂鳥だが,アオバズクコノハズクのように,渡りをするものもある。また,シロフクロウとコミミズクのように,獲物の少ない年だけ長距離の移動をするものもいる。

 フクロウ科のおもな属は,コノハズク属34種,アオバズク属16種,ワシミミズク属12種,スズメフクロウ属12種,フクロウ属11種などで,日本では8属10種が記録されている。そのうち繁殖するのは,フクロウ,アオバズク,コノハズク,オオコノハズクトラフズクシマフクロウの6種である。

 フクロウStrix uralensisはゴロッホ,ホーホーという鳴声で親しまれており,五郎助ホーホー,ぼろ着て奉公などのききなしがある。全長45~58cm,体重は1kgをこえる。全身灰褐色で,暗褐色の縞と斑点がある。ユーラシア大陸の亜寒帯・温帯地方に広く分布する。渡りはしない。日本でも留鳥として北海道から九州まで生息している。うっそうと茂った混交林に多いが,ヨーロッパでは1950年代から市街地近くにすむものが増え,60年代以降は巣箱をよく利用するようになった。夜行性で,ネズミ類などの小哺乳類を捕食するが,地上の獲物を襲うだけでなく,樹枝上の小鳥などもつかまえる。おもに針葉樹林の大木の樹洞に,巣材はつかわず,3,4月に1腹3~4個の卵を産む。雌だけが抱卵し,27~29日で雛がかえる。
執筆者:

フクロウはその生態から古来〈夜の鳥〉あるいは〈死の鳥〉のイメージが強い。ギリシア神話によれば,冥府で何も食べずにいれば地上に戻れる約束になっていたペルセフォネがザクロの実を食べる姿をアスカラフォスAskalaphosが見て,それを告げ口したためペルセフォネの母のデメテルの怒りを買い,フクロウに変身させられたという。西洋では古代エジプトをはじめ多くの地方で凶鳥とみなされ,近くでこの鳥が鳴いた家には死者が出ると信じられた。また,フクロウの声がしているときに生まれた子は一生不運につきまとわれるともいう。しかし女神アテナ(ローマのミネルウァ)の聖鳥でもあることから,知恵の象徴ともなり,眼鏡をかけて本を読むフクロウの戯画が学者への風刺としてしばしば描かれる。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フクロウ」の意味・わかりやすい解説

フクロウ
ふくろう / 梟
owl

広義には鳥綱フクロウ目フクロウ科に属する鳥の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。この科Strigidaeには約120種が含まれる。全長14~70センチメートル、体のわりに頭部が大きく、ほかの鳥と違って目が顔の前面についているのが特徴である。多くの種では、目を中心として顔に顔盤とよばれるくぼみが発達している。嘴(くちばし)は短いが頑丈で、全体に鉤(かぎ)形に湾曲している。足も短いが頑丈で、足指には鋭くとがったつめがついている。羽色はどの種も全体にじみで、褐色や黒などからなっている。頭頂部に羽角(うかく)とよばれる長い羽毛をもつ種がおり、これらの種は多くの場合ミミズクという名がつけられている。この耳のようにみえる羽毛は、実際には飾り羽で、耳とは関係ない。耳は顔盤の下に隠れている。

 フクロウ類の大部分は夜行性または薄暮性である。聴覚および視覚は非常によく発達しており、完全な暗闇(くらやみ)の中でも採食することができる。フクロウ類の外観を特徴づけている顔盤は、集音器として、その下にある耳に音を集めるのに役だっている。耳は大きさ、位置ともに左右不相称で、左右の耳に入ってくる音のわずかなずれを利用して、音源の位置を正確に知ることができる。羽毛は非常に柔らかく、また風切羽(かざきりばね)の前縁がぎざぎざに切れ込んでいるため、飛んでいるとき羽音をほとんどたてない。

 夜の猛禽(もうきん)フクロウ類は、昼間の猛禽ワシ・タカ類と同様、小形哺乳(ほにゅう)類や鳥などを主食にしている。これらの獲物は、一般に枝上から地上に飛び降りてとらえる。一部の種は魚や昆虫を主食にしている。飛翔(ひしょう)している昆虫を主食にしているアオバズクNinox scutulataなどでは、聴覚による狩りが重要ではないため、顔盤の発達が悪い。繁殖期になると、雄は小鳥のさえずりに相当する種固有の鳴き声を発する。これによって縄張り(テリトリー)を構え、つがいを形成しているものらしい。一部の種では、雌も同様の声を出し、雌雄で二重唱することが知られている。巣は樹洞を利用することが多く、1腹2~5個の白色卵を産む。南北アメリカにすむアナホリフクロウSpeotyto cunicularisは、プレーリードッグなどがあけた地中の穴に営巣する。

 フクロウ類は南極を除くほぼ全世界に分布し、生息環境も森林から砂漠、あるいはツンドラにまでわたっている。種のフクロウStrix uralensisは、ヨーロッパからアジアの中部、北部にかけて分布し、よく茂った森林にすむ。全長50~60センチメートル、全体に灰褐色の羽色をしており、「ゴロスケ、ホーホー」と鳴く。日本でも一年中みられる留鳥である。

[樋口広芳]

民俗

古代中国では、母親を食う不孝な鳥とされ、冬至にとらえて磔(はりつけ)にし、夏至にはあつものにして、その類を絶やそうとしたという。『五雑俎(ござっそ)』にも、福建などでは、フクロウは人間の魂をとる使者といわれ、その夜鳴きは死の前兆とされたとある。わが国江戸時代の『本朝食鑑』には、人家に近くいるときは凶であり、悪禽(あくきん)とされ、あるいは父母を食い、人間の爪(つめ)を食うと記す。西洋でも、フクロウは不吉な前兆を表す鳥とされ、古代ローマの皇帝アウグストゥスの死は、その鳴き声で予言されていた。ユダヤの律法を記す『タルムード』は、フクロウの夢が不吉であることに触れているし、『旧約聖書』の「レビ記」はけがれた鳥に数えている。しかし、古代ギリシアでは、アテネを守護する女神アテネの鳥として信仰され、現代でもアテネの神格を受け、知恵と技芸の象徴に用いられる。フクロウを集落の守護者とする信仰もある。北アメリカの先住民ペノブスコット人は、縞(しま)のあるフクロウは危険を予知し、警告するとし、パウニー人は夜の守護者といい、チッペワ人は剥製(はくせい)のフクロウを集落の見張り役とした。北海道のアイヌ民族は、シマフクロウを飼育し、儀礼的に殺して神の国に送り返す、シマフクロウ送りの行事を行う。

[小島瓔


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「フクロウ」の意味・わかりやすい解説

フクロウ

フクロウ科の鳥。翼長32cm。背面は黒褐色で黄白色や白色の斑紋が散在。ユーラシア大陸中部に分布。日本では全国の低地〜低山の林に留鳥としてすむ。昼は梢の葉陰などで眠り,夜行性。おもにネズミ類を捕食し,不消化の骨や毛はペリットとしてはき出す。木の穴を巣とし,春,白くて丸い卵を産む。ゴロスケ,ホッホーと太い声で鳴く。日本で見られるフクロウ科にはほかにアオバズクコノハズクコミミズクトラフズク,オオコノハズク,シマフクロウワシミミズクなどがあり,耳のような羽毛をもつものともたないものとがある。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フクロウ」の意味・わかりやすい解説

フクロウ
Strix uralensis; Ural owl

フクロウ目フクロウ科。全長 50~62cm。羽角はなく,顔は灰褐色で,だるまの顔に似る。眼は顔(顔盤)の前面についているため視野が狭く,それを補うために頸が 180°回転する。耳も頭部の横ではなく顔盤内の眼の横にある。羽色は背面やが暗褐色と黄褐色,白色のまだら模様で,喉から腹面はくすんだ白地に褐色の縦斑がある。虹彩は褐色。スカンジナビア半島からユーラシア大陸を東へオホーツク海沿岸,サハリン島,日本まで帯状に広がる地域と,不連続にヨーロッパ中部,南部に生息する。留鳥で,日本では全国の低地から山地の森林にすむ。夜行性で,日中は木の枝に留まり,夜間にネズミなどをとる。3~4月頃,木の穴や崖の穴,建物のすきまなどに白い卵を 2~4個産む。雄は「ごろすけほーほー」と聞こえる太い声で鳴く。昔は人家付近にも普通に見られたが,近年は減少している。なお,フクロウ科 Strigidaeは約 25属 210種に分類され,全世界に分布している。(→猛禽類

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のフクロウの言及

【鳥類】より

…くちばしの形態は食性や採食法によって種々の適応を示す。たとえば,肉食のワシ・タカ類やフクロウ類のは鋭くかぎ状,種子食のは円錐状であり,海岸の泥中の餌をあさるシギ類のは細長い。鳥の前肢は翼となっているため,くちばしは採食器官としてだけでなく,羽づくろい,巣づくり,闘争などにも用いられ,また求愛やディスプレーでも使われる。…

※「フクロウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android