フシナシミドロ(英語表記)Vaucheria

改訂新版 世界大百科事典 「フシナシミドロ」の意味・わかりやすい解説

フシナシミドロ
Vaucheria

水田や溝などに多く生育する緑色,糸状の管状藻類の1属で,不規則に分枝して全体はマット状を呈する。体は多核体で,隔膜のない1個の細胞から成る。有性生殖は体の側部にできる生卵器と造精器でつくられる卵と精子合体による。無性生殖は糸状体の先端につくられる遊走子による。遊走子は球形ないし楕円形で,等長の2鞭毛を多数もち,直径が約100μmにも及ぶ大型の集合性遊走子である。フシナシミドロは以前は緑藻類に所属させられたが,光合成色素にクロロフィルbをもたないこと,貯蔵物質デンプンでなく油であること,精子が側部にもつ2鞭毛のうち,前方にのびるものは羽形構造であることなどの特徴から黄緑藻綱に所属させる学者が多い。しかし,遊走子がもつ等長の2鞭毛がむち形構造である点は緑藻類の特徴であるとして,独立させて,フシナシミドロ植物門とフシナシミドロ綱の創設を提唱する学者もいる(前川文夫,1955,1960)。フシナシミドロ類は種類数が多く,世界各地から約60種の記載があり,日本では淡水産として約15種,海産として約4種が知られる。代表的な淡水産種にV.sessilis(Vaucher)DC.やV.geminata(Vaucher)DC.,海産種にV.longicaulis Hoppaughがある。種の分類は主として有性生殖器官の形状に基づいて行われる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フシナシミドロ」の意味・わかりやすい解説

フシナシミドロ
ふしなしみどろ
[学] Vaucheria

黄色植物、黄緑藻類の1属。体は分枝した糸状になり、フェルト状に群生する。和名由来は、隔壁のないひとつながりの体内に多核の原形質が入っていることによる。緑色をしているため、古くは緑藻類に入れられていたが、クロロフィルbはなく、また、遊走子と精子の鞭毛(べんもう)のつくりが緑藻とは異なることから、現在では黄緑藻類に移された。約40種知られ、淡水にも海水にも産するが、いずれも浅い水辺に生育する。フウセンモはこれとごく近縁の種である。

小林 弘]

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