フランスの大統領選挙(読み)ふらんすのだいとうりょうせんきょ

知恵蔵 「フランスの大統領選挙」の解説

フランスの大統領選挙

2007年5月のフランスの大統領選挙でサルコジUMP(民衆運動連合)候補が勝利した。12年にわたるシラク時代が終焉した。激しく競り合った社会党の有力女性候補ロワイヤル氏が敗れ、社会党は17年間大統領権力から遠ざかることになった。サルコジ氏の勝因は、手厚い社会保障に代表される「フランス・モデル」の変革と国民の意識改革の主張を有権者が受け入れたことにある。財源の裏づけの不明確な高福祉政策や雇用確保を主張したロワイヤル氏は、結局旧態依然たる社会党のイメージを脱し切れなかった。またサルコジ流の政治は迅速さと巧妙さにある。ネオ・リベラリズムに基づく競争原理を前面に出して、減税・社会保障負担の軽減による労働意欲と生産性の向上を図った政策を推し進める。所得税・富裕税・相続税・住宅購入ローンの利子課税減額などを含む「減税一括計画」、公務員削減などを早々に決め、公共企業体労働者の年金積み立て納付期間の延長にも成功した。10月と11月に激しい交通ストが行われたが、巧みな交渉と妥協合意に達した。物価高騰のあおりを受けて消費者の購買力が落ちているために、その上昇が急務の課題となっている。ひとえにサルコジ大統領の経済政策の成否は、成長率・生産性の向上にかかっている。 05年にフランスが国民投票で批准を拒否して、頓挫した形となっていた欧州憲法条約は、07年6月の欧州理事会でサルコジ氏が懸命にポーランドを説得して合意にこぎつけた。憲法条約の簡素化をサルコジ氏は主張していたが、「憲法」という表現はなくなり、実質的な部分だけ残した新しい基本条約=リスボン条約とすることで欧州連合(EU)統合は再開された。サルコジ氏も欧州統合にとって独仏協調は不可欠とする点では前任者たちと同じ意見で、大統領就任式の当日午後にはドイツでメルケル首相との独仏首脳会談が開かれていたということにそれは示されていた。しかし、対米政策に関してはシラク前大統領とは異なり、ブレア氏張りの親米政策を展開している。夏休みのバカンスを家族とともに米国で過ごしたことはその象徴的出来事であった。イラク支援やイラン制裁強化での米国との協力姿勢や1966年に脱退したNATO(北大西洋条約機構)への復帰に積極的な発言がみられた。他方で、地中海同盟と称して南欧と北・中央アフリカでのフランスのプレゼンス拡大に積極的な姿勢をサルコジは示している。リビアでのブルガリア人看護師・医師人質の解放は劇的であったが、裏には多額の援助やフランスのもつハイテク技術や軍需品輸出がある。対中関係では米国を牽制(けんせい)するような多極外交を展開しているが、ここでも高額の商談が成立している。ネオ・リベラリズム路線によってフランス社会・経済体制が刷新され、EUの牽引車として、また米国の有力なパートナーとして国際的な存在感を高めることができるか、サルコジ大統領の手腕が試されている。

(渡邊啓貴 駐仏日本大使館公使 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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