精選版 日本国語大辞典 「ブラウニング」の意味・読み・例文・類語
ブラウニング
ブラウニング
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イギリス,ビクトリア朝の詩人。宗教と科学の葛藤で懐疑主義が支配した時代にあって,主観を客観化して〈他我alter ego〉の声をつたえる〈劇的独白dramatic monologue〉の新詩をつくり出し,20世紀文学に多大の影響を与えた。銀行員の父と組合教会派の母の間に生まれ,1828年ロンドン大学に入学したものの理想と合わず中退。一時シェリーの思想に感染した。懐疑的宗教観をもつ処女作《ポーリン》(1833),富や愛欲と理想との葛藤を描く《ソーデロー》(1840)を発表,35-42年には俳優で劇場マネージャーのW.C.マックレディの影響で劇作品を書いたが,上演は成功しなかった。この間の劇作品を8分冊にまとめた《鈴とザクロ》(1841-46)の〈ピッパ通る〉は注目をひいた。純真な女工の歌により4人の悪人が改心する物語について,複数の登場人物が自分の立場から意見を述べる〈劇的独白〉の手法がいかされている。この作品は上田敏の《海潮音》に〈春の朝(あした)〉として訳出されている。
46年には女流詩人エリザベスと結婚,フィレンツェで幸福な生活を送り,傑作《男と女》(1855)を完成させた。〈サウル〉など問題作を含むが,古戦場の塔の中で〈亜麻色の髪の乙女われを待ちぬ〉とうたう〈廃墟の恋〉は,晩年の《アソランドー》(1889)の〈至上善〉に通じる比類ない愛の賛歌である。詩人のいまひとつの特質といえよう。大正時代の青年層に広く歓迎された厨川(くりやがわ)白村《近代の恋愛観》(1922)もこの影響である。妻の死後,イギリスに帰り《劇的人物》(1864),《指輪と本》(1868-69)を出して最高の詩的円熟を示した。いずれも人物の精密な心理解剖により複雑な人間の心の動きを追求した大作である。このあと20年間,べネチアで死亡するまでに14冊の詩集を出したが,前作をしのぐものではなかった。ブラウニングの詩は,複雑難解な事件や極度の抽象性,安易なオプティミズムなどの欠点はあるが,当時の科学進歩思想もとり入れ,非個性的な劇的性格やプロットの創造,作品にちりばめられた抒情詩の小品で重要な貢献をした。芥川竜之介の《袈裟(けさ)と盛遠》(1918)は,事件の核心を複数の人物が独自の立場から述べるブラウニングの〈劇的独白〉の形式を用いている。ブラウニングが詩的〈腹話術師〉といわれるのも無理はない。
執筆者:松浦 暢
イギリス,後期ロマン派の詩人。思春期に結核のため病人生活を送ったが,かえって彼女の鋭敏な感性が磨かれ,田舎での広範な読書も実って,1820年ごろからつぎつぎと詩集やエッセーを出した。しかし名声を高めたのは,夫ロバート・ブラウニングへのひたむきな愛をうたいあげた44編の詩集《ポルトガル人のソネット》(1850)である。40歳まで異性との愛をあきらめていた女の愛の歓喜を,神への信仰と死への恐怖を交錯させながら,巧みに表現したものである。46年に秘密結婚をしてイタリアのフィレンツェへ逃避したが,この解放感はトスカナの独立闘争を描いた《グイディ荘の窓》(1851)に表れている。傑作は〈小説詩verse-novel〉の《オーロラ・リー》(1857)であろう。恋物語の形をとりつつ,芸術の特質や価値,婦人の地位などの社会問題を扱った無韻詩である。詩人としてのビジョンや深い洞察に欠けるものの,その豊かな感性の詩は比類ないものである。
執筆者:松浦 暢
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…やがて産業資本家たちの自然,そしてダーウィンの自然へと移っていったからである。テニソンやブラウニングは,まだビクトリア朝の思想,道徳,哲理を彼らの詩作品に歌いえたが,そのあと,新しい科学思潮と,肥大した商工業社会の成長の渦に巻きこまれて,詩人の声は急激な変質を余儀なくされた。かつては社会,政治,思想,知識,道徳,信仰に直接〈参加〉する声であったものが,自分ひとりでささやく声へ変質していったのだといえよう。…
※「ブラウニング」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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