ベニタケ(読み)べにたけ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベニタケ」の意味・わかりやすい解説

ベニタケ
べにたけ / 紅茸
[学] Russula

担子菌類、マツタケ目ベニタケ科ベニタケ属のキノコ総称。一般に茎が太くて短く、傘は初めまんじゅう形、のち浅い漏斗(ろうと)状に開き、裏には整然と並ぶひだがあり、全体に端正な形をするものが多い。キノコには柔軟性がなく、もろくて折れやすい。これは、子実体を構成する菌糸が糸状の菌糸だけでなく、多数の球状の細胞に変形しているためである。胞子にはベニタケ科に共通する独特な突起模様がある。

 傘の色は白、黄、茶、紫、紅、赤、緑などと多彩であるが、紅から赤色の種が多く、かつ目だつことからベニタケの属名がついた。学名Russula語源も、赤を意味するラテン語のrussusに基づく。ベニタケ属は、日本では40種ほどの記録にすぎないが、生物相が日本よりはるかに単純なヨーロッパにおいても、すでに160余種が記録されている(ヨーロッパにはベニタケ科専門の研究者もいる)。このことから、日本にはまだかなりの数の種が生育していると思われる。

 ベニタケ属のキノコには、辛味をもつものが少なくない。本来、辛味と毒性とは無関係であるが、紅色でとくに辛味が強いドクベニタケは、毒キノコの代表のように考えられている。しかし、ドクベニタケには毒性がなく、毒キノコとされるのは、そのけばけばしい色と強い辛味による。ベニタケ属には比較的毒キノコは少なく、ニセクロハツが唯一の猛毒菌といってよい。食菌として美味なものには、アイタケ(傘の色は緑)、シロハツ(白)、カワリハツ(紫ないし緑)、ニシキタケ(紅)などがある。なお、ベニタケ属のキノコはすべて菌根菌で、樹木と共生する。

 ベニタケ科にはほかチチタケLactariusがある。形態はベニタケ属によく似るが、乳を分泌するかどうかで両属が区別される。すなわち、乳を分泌するのがチチタケ属、分泌しないのがベニタケ属である。

[今関六也]

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改訂新版 世界大百科事典 「ベニタケ」の意味・わかりやすい解説

ベニタケ (紅茸)
Russula

担子菌類ハラタケ目ベニタケ科のベニタケ属Russulaのキノコの総称。ドクベニタケR.emetica (Fr.) S.F.Gray,ヤブレベニタケR.lepida Fr.,コベニタケR.fragilis Fr.その他紅色のキノコが多く,昔はまとめてベニタケと呼んだ。ベニタケ科は,乳を分泌するチチタケ属と,乳を出さないベニタケ属に分けられる。ともに肉は硬いがもろくて砕けやすい。キノコが繊維状の菌糸のほかに,球形の細胞で組み立てられるからである。また胞子は球形か球形に近い形で,表面に粒状の突起をおびる共通の特徴がある。色は赤,紅のほか白,黄,茶,緑,紫,黒などさまざまで,林内の地面を飾る。緑色のアイタケR.virescens (Zanted.) Fr.,淡紫~淡緑色のカワリハツR.cyanoyantha (Secr.) Fr.その他美味な食用キノコが少なくない。ドクベニタケは,味がきわめて辛いのと色が赤いので毒と考えられるが,恐ろしい毒キノコではない。ベニタケ属には味が辛いものが多いので,採取したらまず少量を口にいれて味を確かめるのがよい。種を見分ける重要な特徴になる。毒キノコはニセクロハツR.subnigricans Hongoが知られているだけであるが,黒いベニタケ属のキノコは食べないほうがよい。
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百科事典マイペディア 「ベニタケ」の意味・わかりやすい解説

ベニタケ

ベニタケ科ベニタケ属の数種のキノコの総称。夏〜秋,林内地上に単生または群生する。全体に肉質でもろく,かさの表面が紅色で多少粘性があり,ひだは白〜淡黄色,柄は太く白っぽい。ニセクロハツは猛毒があり,かさは径5〜12cm,生長すると漏斗(ろうと)形となり,黒褐色。ひだを傷つけると赤変する。アイタケ,カワリハツなどは美味。ほかにドクベニタケ,オオベニタケ,コベニタケ,ニシキタケなど一見毒々しく辛味のあるものもあるが毒性はない。

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