ホスフィン酸(読み)ほすふぃんさん(英語表記)phosphinic acid

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホスフィン酸」の意味・わかりやすい解説

ホスフィン酸
ほすふぃんさん
phosphinic acid

酸化数Ⅰのリンのオキシ酸で、(HO)PH2(=O)の式で表され、P-H結合とホスホリル基P=Oをもつ無機リン化合物である。図Aに示すように、次亜リン酸とは互変異性体の関係にある。

 ホスフィン酸ナトリウムをイオン交換樹脂で処理して、酸の形にすると得られる。図Bに示すように、ホスフィンオキシドを過酸化水素(またはヨウ素)により酸化しても、ホスフィン酸を調製できる。この化合物がPH2基をもつことは、NMR(核磁気共鳴)などの物理測定により確かめられている。

 化学式PH3O2、式量66.0。融点26.5℃。100℃以上で分解し、ホスフィン(リン化水素)とホスホン酸を経てリン酸になる。比重1.45。医薬品、合成反応の還元剤として用いられる。

 ホスフィン酸の有機誘導体としては、図Cで示すように、PH基のHをアルキル基R(Rはアリール基など、ほかの有機基でもよい)により置換したアルキルホスフィン酸と、OH基のHをアルキル基で置換したアルキルエステル(ホスフィン酸エステル)がある。アルキルホスフィン酸には、さらにPH2基のH原子のうち1個だけをアルキル基で置換した(モノ)アルキルホスフィン酸RHP(O)OHと、PH2基のH原子2個を両方ともアルキル基で置換したジアルキルホスフィン酸R2P(O)OHがある。

[廣田 穰 2016年2月17日]

『F・A・コットン、G・ウィルキンソン著、中原勝儼訳『無機化学』(1972・培風館)』『古賀元・古賀ノブ子・安藤亘著『有機化学用語事典』(1990・朝倉書店)』


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化学辞典 第2版 「ホスフィン酸」の解説

ホスフィン酸
ホスフィンサン
phosphinic acid

HP H2O2(66.00)の伝統名.IUPAC(酸命名法)正式名称はジヒドリドジオキソリン酸(dihydridodioxophosphoric acid).旧名称,次亜リン酸.HO-P(=O)H2構造の一塩基酸.P原子に2原子のHとOH基,1原子のOが四面体型に結合していて,OH基のH原子は残りの [PH2O2] と水素結合している.水溶液中でPH3を I2,HClOなどで酸化してつくる.工業的には,白リン消石灰で処理して得られるCa塩をNa塩にかえてH型イオン交換樹脂カラムを通すと酸水溶液が得られる.無色結晶.密度1.49 g cm-3.融点26.5 ℃.潮解性がある.水,アルコール,エーテルに可溶.pKa 1.244(25 ℃).130 ℃ 以上で不均化反応を起こしてH3PO4とPH3になる.強い還元性があり,Cu2+,Ag などを還元する.還元剤として利用するほか,ホスフィン酸塩原料とする.[CAS 6303-21-5]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ホスフィン酸」の意味・わかりやすい解説

ホスフィン酸
ホスフィンさん
phosphinic acid

化学式 HPH2O2 。次亜リン酸ともいわれていたが,これは誤称。四面体形の [PH2O2]- を含む一塩基酸。白リンをアルカリ液と熱するとホスフィンを発生してホスフィン酸塩が得られ,硫酸を作用させるとホスフィン酸となる。またホスフィンを水とヨウ素で酸化しても得られる。無色,潮解性結晶。融点 26.5℃,比重 1.49。熱すると不均化反応を起す。

3H3PO2→PH3+2H3PO3

また強烈な還元剤で,水を還元分解する。

H3PO2+H2O→H3PO3+H2

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