ホワイトスペース(通信、放送)(読み)ほわいとすぺーす(英語表記)white space

翻訳|white space

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ホワイトスペース(通信、放送)
ほわいとすぺーす
white space

英単語のホワイトスペースは、日本語では空白、余白を意味するが、電波分野においては、放送のために割り当てられている電波帯域のうち、未利用で、特定の条件のもとで他の通信目的にも利用可能な周波数帯域をさす。

[吉川昭吉郎 2016年4月18日]

ホワイトスペースとは

ラジオやテレビの放送では、それぞれ決められた電波の周波数範囲内に、放送チャンネルごとの放送帯域が割り当てられている。放送局数は割り当てられている放送帯域の数よりもずっと少ない。そのため、放送チャンネルは未利用の帯域を間に挟み、余裕をもってとびとびに設定されている。未利用帯域を間に挟むのは、放送局間の混信を避けるためで、挟まれた未利用帯域は、混信をガードする(防御する)という役割から、当初はガードバンドとよばれた。2000年代後半になって、未利用帯域を別の通信に活用する構想が生まれ、ガードバンドはこのための空白地帯と位置づけられて、呼び方もホワイトスペースに変わった。

 未利用帯域を別の通信目的に活用しようという構想が生まれた背景には、電波需要の急増によって電波資源の効率的利用が急務になっているという社会的要因と、放送のデジタル化によって隣接した帯域を別の通信に利用しても混信を避けることができるようになったという技術的要因がある。

[吉川昭吉郎 2016年4月18日]

ホワイトスペース活用の提案と欧米における活用の動向

ホワイトスペース活用の提案は、2000年代後半にアメリカにおいて始まった。提案元は、放送とは異業種であるIT(情報技術)関連企業のグーグルマイクロソフトモトローラデルなどで、使われていないホワイトスペースを解放すべきであるとしてFCC(アメリカ連邦通信委員会)に提案を行った。これに対し放送業界やワイヤレスマイクロホンラジオマイク)業界は、混信や妨害の発生を理由に反対の立場をとり、IT業界と放送業界の間で激しい論争が繰り広げられた。この問題に関し、FCCが検証実験を繰り返し行い、その結果を踏まえて2008年11月、FCCはデジタルテレビジョン放送帯域におけるホワイトスペースで、放送やワイヤレスマイクロホンへの混信を避ける機能を確保して認証を受けることを条件に、個人向け・商業向けのブロードバンド通信用の無線機器を無免許で利用できるとする決定を下した。またIEEE(アイトリプルイー)(アメリカ電気電子学会)は標準化活動の一環として、IEEE802規格(LAN(ラン)などの通信・ネットワーク規格)のなかに、テレビ放送帯を利用したデータ通信や、ホワイトスペースの干渉防止などの規定を設けた。これらの周到な準備を経て、ホワイトスペースを利用した通信サービスが開始された。従来のWi-Fi(ワイファイ)(無線LANの一方式)は3~5ギガヘルツ帯の電波を使っているが、ホワイトスペースを利用するスーパーWi-Fiは、より低い周波数の700メガヘルツ帯の電波を使うため、電波の直進性が緩和されてビルの陰にも電波が届きやすく、伝播(でんぱ)途上の減衰も少ないので、はるかに遠距離の通信が可能となるなど、サービスの質的向上が期待される。このほか、各種の利用法が検討されている。ヨーロッパにおいてもイギリスでホワイトスペースの導入が決定されているほか、各国で検討が始まっている。

 アメリカやヨーロッパにおけるホワイトスペース活用は、無線ブロードバンドを強化するような双方向性サービスが主流である。

[吉川昭吉郎 2016年4月18日]

日本におけるホワイトスペース活用計画

日本では、総務省が2009年(平成21)12月、「新たな電波の活用ビジョンに関する検討チーム」を発足させ、ホワイトスペースの有効利用に関する研究を開始した。2010年7月にホワイトスペース活用の実現に向けた方策が取りまとめられ、同年9月にホワイトスペースの全国展開を目ざす「ホワイトスペース推進会議」が設立された。さらに2013年1月、関連事業者とその団体および学識経験者などで構成される「TVホワイトスペース利用システム運用調整連絡会」が設立され、ホワイトスペースを活用したサービスや推進にあたっている。

 日本では、地上デジタル放送にあてられているUHF帯(470~710メガヘルツ)をホワイトスペース帯域とし、この帯域が検討の対象となる。この帯域には40のテレビジョン放送チャンネルが割り当てられているが、実際に利用されている放送チャンネルは、放送局の多い都市部でも最大13程度で、未利用帯域のほうがずっと多い。電波利用の点で、いわば眠っているこれら未利用帯域を、他の通信目的に活用することがねらいである。

 他の通信目的に活用する際の基本的な条件は、放送に混信を与えてはならないこと、放送から混信を受けても保護を求めてはならないこと、後日開設される放送にもこれらが同様に適用されることなどで、本来の放送が最優先である。

 総務省では、地域によって異なるホワイトスペースとして利用可能な電波条件を検証したり、地域の特性を生かしたビジネス展開を促進するための実証実験を行ったりする目的のホワイトスペースとして、「ホワイトスペース特区」を創設した。2010年9月、「ホワイトスペース特区」でどのような実証実験を行うことができるかについての提案を募った。2011年4月に、44件の提案のなかから25件が採択され、「ホワイトスペース特区」として決定された。提案者には、自治体、教育機関、放送、ケーブルテレビ(CATV)、音楽、スポーツ、交通、エンターテインメント、貸ビル業などの多様な業種が含まれ、地域も全国的に分布して、特徴あるプロジェクトの実験が行われるものと期待されている。総務省は、実験経過をみながら「ホワイトスペース特区」を増設し、最終的には少なくとも各都道府県に一つ設けることを計画している。

 総務省は、2004年から「周波数再編アクションプラン」を策定し公表しているが、2011年9月の改定版では、ホワイトスペース帯域の利用および他の周波数帯域からホワイトスペース帯域への移行に関する基本方針を示した。

 以下、総務省資料をもとに、現在検討が進んでいるホワイトスペースの利用計画を紹介する。

[吉川昭吉郎 2016年4月18日]

エリア放送型システム

携帯端末向けのワンセグ放送など、既存の端末機を活用して受信ができることを想定した放送システム。地上デジタル放送は地域が違えば放送チャンネルの周波数が違うため、地域ごとに利用可能なホワイトスペースを確認し、また地上デジタル放送に妨害を与えない送信所の設置場所をみつける必要がある。サービス内容として、地域防災情報、観光情報、交通情報、地域コミュニティなどが検討されている。将来的には地球上の現在位置を測定する全地球測位システム(GPS)を利用して、一つの放送チャンネル地域から他の地域に放送チャンネルを移動してもとぎれることなく受信ができるシステムも可能と考えられている。

[吉川昭吉郎 2016年4月18日]

特定ラジオマイク

ラジオマイクとは、マイクロホンで受けた音を無線で伝送する装置のこと。別の言い方をすればマイクロホン付きの小規模無線送信機で、ワイヤレスマイクともよばれる。ラジオマイクという呼び方はイギリスで、ワイヤレスマイクという呼び方はアメリカで使われるが、日本の電波法ではラジオマイクが正式用語となっている。コードレス電話や遠隔操作など種々の目的に使われる。ラジオマイクのうち、無線局免許が必要で、放送番組製作やコンサート、劇場の音響収録など業務用に使われる高音質方式のものを特定ラジオマイクとよぶ。特定ラジオマイクにはホールなどに備えつけられる固定型と、自動車に搭載してイベント会場などに機動的に出向いて使う移動型がある。特定ラジオマイクの電波は、現在800メガヘルツ帯がFPU(Field Pickup Unit。テレビジョン放送用の無線中継装置、マイクロ波回線)と共用で使われているが、「周波数再編アクションプラン」で、移行先候補の一つとしてホワイトスペース帯が示されている。ちなみに、もう一つの候補は1.2ギガヘルツ帯である。

[吉川昭吉郎 2016年4月18日]

センサーネットワーク

複数のセンサー付き無線端末機を分散配置し、それらが協調して環境や種々の情報を採取する無線ネットワーク。省エネルギー管理、交通情報、健康管理、農業管理などさまざまな分野で使われる。現在は900メガヘルツ帯が使われているが、「周波数再編アクションプラン」でホワイトスペースに移行することが示されている。移行が行われれば、現行に比べて、伝送距離を伸ばし、情報量を増大する効果が期待される。

[吉川昭吉郎 2016年4月18日]

災害向け通信システム

東日本大震災後、災害時の通信システムの多重化が重要視されるようになった。平常時は、既設の無線LANなどを利用して、地域情報や見回り情報の配信などが十分に行われている地域でも、災害時に備えて予備の通信ルートを確保しておくことが望ましい。予備ルートとして検討対象にあがっているのが、ホワイトスペースの活用で、被害のあった建物の中を探索する災害ロボットの操縦および映像・音声伝送などを行う無線ネットワークを構築することが検討されている。

 このように、日本のホワイトスペース活用は、地域コミュニティを対象とした一方向性の配信サービスが主で、欧米のように無線ブロードバンドを強化した双方向性サービスは考えられていない。しかし将来、後者が取り上げられることになれば、携帯電話、スマートフォン、タブレット型端末などの利便性向上や利用料金引き下げに貢献することが期待される。

[吉川昭吉郎 2016年4月18日]

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