ボリスゴドゥノフ

精選版 日本国語大辞典 「ボリスゴドゥノフ」の意味・読み・例文・類語

ボリス‐ゴドゥノフ

(Boris Fjodorovič Godunov ━フョードロビチ━) ロシア皇帝(在位一五九八‐一六〇五)。身分の低い貴族の出で、選出されて即位農奴制強化農民反乱を招いた。その生涯は、プーシキン戯曲ムソルグスキーオペラ題材となった。(一五五二年頃━一六〇五

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「ボリスゴドゥノフ」の意味・わかりやすい解説

ボリス・ゴドゥノフ
Boris Godunov
生没年:1555ころ-1605

ロシア皇帝。在位1598-1605年。貴族の出で,最初イワン4世(雷帝)に仕えた。イワンの没後,その子フョードル1世が即位したが,フョードルの妃はゴドゥノフの妹で,しかもフョードル自身が病弱ということもあって,ゴドゥノフが実権を握った。彼はイワンの中央集権化政策を受け継ぎ,反対派のシュイスキー公家一門やロマノフ家一門をモスクワ政界から追放した。1591年フョードルの弟で唯一の帝位継承者ドミトリー・イワノビチの暗殺事件が起きたときには,ゴドゥノフが刺客を放ったとか,ドミトリーは難を逃れたとかのうわさが流れた。フョードルが病没し,リューリク朝が断絶した98年にゴドゥノフは全国会議で皇帝に推戴されたが,彼は即位以前から事実上の統治者としてイワンの遺志を受けて,士族の利益を重んじ,農奴制の強化に努めた。1581年以来の〈禁止の年〉(〈ユーリーの日〉の農民移転の中止)の制を恒久化し(1592-93年ごろ,このための法令が公布されたとする説もある),農民緊縛の基礎となる〈土地台帳〉作成の事業を92年にほぼ完了し,97年11月法令によって逃亡農民追求権の期限を5年とした。97年2月のホロープ奴隷)法令はホロープ制度の再編・強化をもたらした。1601-03年の凶作飢饉に対処するため〈ユーリーの日〉の条件つき復活を許し,03年の〈フロプコの蜂起鎮圧に成功した。外交的には1590-93年,スウェーデン戦い,かつてチュートン騎士団に奪われたオレショク,イワンゴロドなどの都市を回復し,バルト海に進出した。また,シベリア植民にも力を注いだ。偽ドミトリー1世のモスクワ進攻の知らせのうちに,05年4月その生涯を閉じた。
執筆者:

ボリス・ゴドゥノフ
Boris Godunov

ムソルグスキーのオペラ。プロローグと4幕より成る。台本はプーシキンの原作とカラムジンの《ロシア国家史》に基づき作曲者自身が書いた。1869年に完成した版は4幕であったが,マリインスキー劇場に上演を拒否されたので,女性の登場する〈ポーランドの場面〉を新たに書き加え,他の部分も少し改訂して,74年に現在原典版と呼ばれているものを完成,上演にこぎつけた。初演は大成功であったが,批評界は賛否両論に分かれた。作曲者の死(1881)後,まもなく上演曲目から外されたが,96年にリムスキー・コルサコフが全面的に改訂した版を出版した。シャリアピンがボリスを当り役として世界的に親しまれるようになった。1928年に原典版の出版もあったが,現在でも一般にはリムスキー・コルサコフの版が基本になっている。16世紀末にリューリク家の血が絶えたとき皇帝に選ばれたボリス・ゴドゥノフが,正嫡の王子ドミトリーを殺したことで自責の念に悩まされ,死んでいくという皇帝個人の悲劇としてまとめられたのがリムスキー・コルサコフの版であったが,現在は原典版から大衆の暴動の場面〈クロームイ近郊の場〉などを補って,民衆劇としての性格を強調した演出が多い。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のボリスゴドゥノフの言及

【プーシキン】より

…バイロンに代わってシェークスピアが彼の心をひきつけた。シェークスピア研究はまず史劇《ボリス・ゴドゥノフ》(1825,刊行1831)に結実した。追放処分を受けていたため,25年のデカブリスト蜂起への連座を免れたが,皇帝ニコライ1世の〈温情〉によって自由の身とされた後も,終生秘密警察の厳しい監視と検閲のもとに置かれた。…

【ムソルグスキー】より

…しかし,友人から〈白痴〉と呼ばれるほどに生活感覚に乏しく,飲酒癖もあって,貧困のうちに42歳の若さで死去した。74年初演されたオペラ《ボリス・ゴドゥノフ》は生前20回以上も上演され,名声を得た。虐げられた農民への深い同情と社会の矛盾を告発する数多くの歌曲(《カリストラート》1864,《子守歌》1865,《かわいいサビシナ》1866,《神学生》1866,《みなしご》1868,《人形芝居》1870など)は音楽における批判的リアリズムの代表作とされる。…

【ロシア国民楽派】より

…グリンカの抒情的旋律と色彩的管弦楽法,ダルゴムイシスキーの叙唱を重視するリアリズムの手法は,彼らの表現手段の基礎になった。オペラの分野ではムソルグスキーの《ボリス・ゴドゥノフ》(1869)と《ホバンシチナ》(1880),A.P.ボロジンの《イーゴリ公》(1890初演),リムスキー・コルサコフの《雪娘》(1881)や《サトコ》(1896)などがあるが,大衆の場面に重要な意味を与えた点に独自な劇作法を指摘できる。 管弦楽の分野では絵画性と風俗描写などを特徴としてあげることができるが,ボロジン(二つの交響曲と交響詩《中央アジアの草原にて》(1880)など)とバラーキレフ(《三つのロシアの歌の主題による序曲》(1858),交響詩《タマーラ》(1882)と《ルーシ》(1887)など)はロシア管弦楽の確立者の一翼をになっているし,リムスキー・コルサコフ(《スペイン奇想曲》(1887),《シェエラザード》(1888)など)の色彩豊かな管弦楽法はロシア音楽の古典になった。…

※「ボリスゴドゥノフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android