ポリス(英語表記)polis

翻訳|polis

精選版 日本国語大辞典 「ポリス」の意味・読み・例文・類語

ポリス

〘名〙 (polis)
① 古代ギリシア人の都市国家。紀元前一〇~前八世紀頃、氏族社会から王制、ついで貴族制へと移行する過程で、政治、軍事の担当者の中心市への集住によって成立したといわれる。紀元前四世紀頃から衰退。ヘレニズム時代には消滅。
※学生と教養(1936)〈鈴木利貞編〉教養としての社会科学〈蝋山政道〉「ソフィスト達が希臘市民を啓蒙し、その迷信や伝説において成立ってゐたポリスの観念を打破して」
② 転じて一般に、都市の意。「ネオポリス」「メガロポリス」などのように複合して用いられることが多い。

ポリス

〘名〙 (police)
① 警察。
※開化問答(1874‐75)〈小川為治〉二「郵便の通達、ポリスの事務などの事を掌り」
② 警官。巡査。邏卒。ポリ。
※英政如何(1868)一六「取締(ポリース)方は実に大刑獄司の如くにして」

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デジタル大辞泉 「ポリス」の意味・読み・例文・類語

ポリス(〈ギリシャ〉polis)

古代ギリシャの都市国家。前9世紀ごろ、氏族社会から貴族制への移行の過程に成立。ヘレニズム時代に消滅。

ポリス(police)

警察。警官隊。
警官。巡査。
[類語]警察さつ

ポリス(Polis)

キプロス北西部の町。アカマス半島の基部に位置する。近隣に、美と愛の女神アフロディテが水浴びをしたという泉や、手つかずの自然が残るアカマス自然遊歩道などがある。

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改訂新版 世界大百科事典 「ポリス」の意味・わかりやすい解説

ポリス
polis

古代ギリシア語で一般に都市や都市国家(非ギリシア人のものも含めて)を指す。歴史学の用語としては,前8世紀ころに成立し,前5世紀を頂点として繁栄したギリシア人の特有な都市国家を意味する。青銅器時代にはギリシア各地に王国が割拠していたが,前11世紀ころ,鉄器時代に入るとともにそれらは崩壊し,王家が存在した場合でも弱体化して,貴族政が支配的になる。この頃,貴族が中心となり,一般自由民の潜在的主権を背景として,小規模な国家が各地に形成されたらしい。これがポリスであり,外形的には中心に町があり,それを囲んで領土があるが,最も広い場合でも日本の県ほどの広さであった。町の中心にはアクロポリスアゴラがあり,行政,経済,宗教の中心ともなっていた。町の周囲には城壁が築かれることが多く,戦時には町の外の農民なども,ここへ避難する。最初は行政,司法,祭儀などを貴族が担当したが,前6世紀ころ,商工業の活発化に伴い党派抗争が発生し,非合法の独裁政(僭主政)が成立することもあった。その間に一般自由民が市民として発言権を高め,前5世紀には,貴族と抗争を続けたり,完全な民主政へと進んだりする。以前は貴族や有産階級に限られていた重要な役職も,しだいに一般市民にまで開放され,民会(市民総会)の権限が強化されたので,有能な指導者を欠く場合には衆愚政治に堕する危険があった。

 このように,しだいに民主化される傾向はあったが,参政権はあくまで世襲的な市民の成年男子に限られ,メトイコイ(在留外人。多くは商工業に従事する)や奴隷は除外されていた。したがって市民の地位は特権的なものであり,また直接民主政という必須の条件があったから,市民数には限度があった。最も多いアテナイの場合でも,成年男子市民は3万~4万人程度であり,理論的には数千人程度が理想と考えられた。

 古代ギリシアの盛時には,このようなポリスがギリシア本土やエーゲ海地域ばかりでなく,植民活動の結果として,黒海沿岸やイタリア南部,シチリア島,フランスやスペインの南岸などにも分布していた。その数は数百から千数百にも及んだはずであるが,地理的条件や歴史的条件に制約されて,規模や形態や社会構成は多様であった。独立自治を原則としたが,実際には多少とも従属的な地位に落ちていたものも多い。したがってポリスの数を数えることは不可能なことである。その歴史や機構が詳細に知られるのは,アテナイとスパルタという例外的に大きいポリスだけに限られ,しかも両者は多くの点で対照的に異なっていたのである。ポリス相互間には多少の抗争は絶えず発生していたが,前5世紀後半ころから,これが大規模化し,長期化する。さらにポリス内部にも貴族派と民主派との抗争があった。このようにして分裂しているうちに,北方マケドニアに征服され,ヘレニズム時代に入るが,ギリシア世界の多くのポリスは依然として多少の独立を保っていて,自治的活動は続けた。
都市国家
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百科事典マイペディア 「ポリス」の意味・わかりやすい解説

ポリス

古代ギリシアの都市国家。polisは本来外敵が侵入した際に避難し防御するための丘(アクロポリス)を意味した。前8世紀ころ集住(シュノイキスモス)によって成立。一般に,アクロポリスを中心にアゴラと呼ばれる広場をもつ城壁に囲まれた都市部と,郊外の農村とからなる。貴族政,寡頭政,民主政の各時代を通じて市民は参政権をもち,ほかにメトイコイ(在留外人),奴隷,ときにはペリオイコイ(市民以外の自由民)がいた。ポリスは自由・自治を原則とする国法を有し,自給自足を理想としていたが,他のポリスに従属的になったものも多い。最盛期にはこうしたポリスがエーゲ海地域のみならずイタリア南部,シチリア島,フランス南部にまで広く分布。例外的に大きなアテナイ(アテネ),スパルタなどのポリスを中心に抗争が繰り返された。ヘレニズム時代以後,ポリスの政治的独立は失われたが,なお多少の自治は享受した。
→関連項目キオス[島]ギリシア(古代)古代オリンピック都市隣保同盟

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ポリス」の解説

ポリス
polis

古代ギリシア人の都市国家。polisの語は本来外敵に対し防御,避難に適する丘を意味した。ギリシア人の都市国家はこのような丘を持つ中心市(アステュ〈asty〉)を軸に形成されたので,周囲の領土を含め国家全体がポリスと呼ばれた。古代社会のなかでポリスに似たものとしては共和政初期のローマがあげられるのみで,都市国家と呼ばれるもののなかでもポリスは独特の性格を持っている。それは前750年頃から成立し始め,法制的には長期にわたって完成された。ポリスは内部の社会構成によってスパルタ型とアテネ型の二つに分けることができる。前者はスパルタとかクレタ島にできた多数のポリスのように,ドーリア人が先住民を征服し,これを奴隷身分におとしいれて形成した国家であり,少数の市民は征服後,割り当てられた世襲地(クレーロス〈kleros〉)を奴隷身分の世襲的農民に耕作させた。この型のポリスでは市民の戦士共同体的性格が特に強かった。一方アテネ型では,征服・被征服に由来する社会階級の対立はみられず,初期には,広義の市民と呼ぶべき共同体成員の間に,貴族と平民の身分的な差異が顕著で,政権は貴族が独占した。しかし重装歩兵戦術の普及とともに中小農民の政治的地位が向上し,さらに前5世紀以降,軍艦漕者としての無産市民の発言権の増大により民主政ポリスの段階に到達した。その頃には,初期には少なかった購入奴隷が家内奴隷として,また工業生産のために多く使われ,市民と在留外人(メトイコイ)の身分的差別も確立した。アテネの例でみると,市民共同体としてのポリスの排他性はソロンの頃にはまだゆるく,民会が前451年に,両親ともアテネ人たる者のみをアテネ市民とする,と決議したとき,排他性が極まって,ポリスは法制的に完成した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ポリス」の意味・わかりやすい解説

ポリス
polis

古代ギリシアの都市国家。村落集住 (シュノイキスモス) によって,君主政に対立する国家形態として生じ,その起源は前 10~8世紀にまでさかのぼる。自然風土や社会的・宗教的要因によって数多くのポリスが分立したが,その規模はほとんどはごく小さく,植民市 (アポイキア ) として成立したものも多い。ポリスは中心市と農耕周域部から成り,大多数は城壁を備え,市内には原ポリスである城塞 (アクロ・ポリス) ,市場 (アゴラ) が存在し,周域部には市民の所有地,共有地があったが,その領域は通常狭い範囲に限られていた。ポリスは自由と自治を理想とし,市民は氏族および宗教共同体の一員であるばかりでなく,国家共同体の一員としてもっぱら政務,軍務にたずさわった。完成されたポリスにおいては,そうした市民団の枠は在留外人 (メトイコス ) や奴隷などと身分的に厳格に区別された。このような体制を基盤として市民全体の政治参与を実現した民会 (エクレシア ) の存在は古典古代の一大特色をなしている。ポリスにはさまざまの型があったが,最も典型的な例はアテネで,その民主政組織はほかのポリスに大きな影響を与えた。ポリスは相互の絶えざる分立抗争と内部の党派争いなどによって前4世紀には凋落しはじめたが,続くヘレニズム時代の知的文化的基盤はポリスの伝統に根ざしている。またポリスにおいては文明の発達とともに,さまざまな政治現象が生じ,多くの思想家たちはこれに刺激されて政治理論を生み出し,ポリスは政治学の母胎であった。政治や政治学を意味する politicsという言葉は polisに由来する。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ポリス」の解説

ポリス
polis

古代ギリシアにおける都市国家
前10〜前8世紀,王政が貴族政に移ったころ,集住(シノイキスモス)によって成立したという。アテネ・スパルタ・テーベ・コリント・デルフィ・イオニア諸市などが代表的で,その数はギリシア本土だけで150を数え,海外植民地を加えると1000にもおよんだ。人口規模はアテネを例外として数千ないし数万程度。小さくともポリスは1個の主権国家であり,戦時には重装歩兵として国防を担う市民を中核として,自由と自治を理想とし,市民の間における平等の原理を基本とした。たてまえとしては,ギリシア人の生活はすべてポリスを中心に営まれた。各ポリスはそれぞれ成立の時期も発展の型も異なるが,たいていのポリスは城壁をめぐらした市部と周辺の田園部とを含み,防衛・信仰の中心となる丘(アクロポリス)と市民の会合の広場(アゴラ)があった。各ポリスは政治的に統合されることはなかったが,オリンポス12神の信仰,オリンピア競技会,デルフィの神託,ギリシア語,ホメロスの詩などを通してゆるやかな一体性を有していた。

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世界大百科事典(旧版)内のポリスの言及

【ギリシア】より

…このうちビザンティン文化はギリシア正教を精神的支柱として今日まで民衆の生活の中に脈打っている。古代文化は,ギリシア語ギリシア文字としてギリシア人の歴史全体を貫いているが,ポリス政治の中で発達した直接民主政や多神教の宗教思想のような古代に特徴的な生活規範は今日ではまったく消え去っているといってよかろう。もとより古典演劇は今日でも現代風演出のもとで古代劇場において催されているし,古典古代文化の研究は,文学,哲学から歴史学,考古学,碑文学,さらには音楽の復元に至るまで盛んに行われているが,民衆の生活意識の中に古代が生きているといったようなものではない。…

【公共】より

…この意味での公共,すなわち公的領域は,私的領域に対立して人間生活の一半を構成する。それが典型的に成立したのは,ギリシアのポリスにおいてであった。H.アレントによれば,公的なものとは,万人によって見られ,聞かれ,かつ評価される存在を意味する。…

【商業】より

…バビロニアやアッシリアにおいて高度に発達した商業は,強力な国家の支配する管理貿易や朝貢貿易の形をとっていたが,そのなかから芽生えた市場交易は東地中海において発達した。ギリシアのポリスは,ほとんどすべて海岸やそれに近接した地域に建設されたことからわかるように,遠隔地貿易と密接な関係があった。前7世紀ごろに金属貨幣が発達したのもこの地域であった。…

【植民市】より

…ギリシア語ではアポイキアapoikia,ラテン語ではコロニアcoloniaという。西洋の古代文明は主として都市の文明であったが,とりわけギリシアではポリスと呼ばれる多数の都市国家を基盤として文明が盛衰した。ポリスは前8世紀ころにギリシア本土や小アジア西岸で成立するが,そのうち特に活発なポリスは以後200年間に多くの植民市を建設する。…

【都市】より

…古い大都市周辺部の衛星都市がそれぞれ膨張して,市街地が連接するようになったことである。第3には,巨大都市といくつかの大都市がその都市圏を連接し,一つの共通都市圏を形成するにいたったメガロポリス(巨帯都市)の誕生である。アメリカ合衆国北東部のボストンからニューヨークを経てフィラデルフィアに至る地帯に名づけられた名称であるが,ライン・ルール,ロンドン・バーミンガム,シカゴ・シンシナティ,ロサンゼルス,東京・大阪などもメガロポリスの性格をもっているといわれるようになった。…

※「ポリス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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