マチン(英語表記)strychnine tree
Strychnos nux-vomica L.

改訂新版 世界大百科事典 「マチン」の意味・わかりやすい解説

マチン
strychnine tree
Strychnos nux-vomica L.

有毒植物として有名なマチン科常緑あるいは落葉の高木。幹は直通し,樹高15mほどになるが,大きなものは30mにまでなるといわれる。葉は対生し,卵形から円卵形で,先はやや尾状にとがり,厚質で光沢があり,基部から中肋および左右2本ずつの脈を出し,5行脈になることが多い。花は茎頂に生じる集散花序に多数つき,帯緑白色。1~1.2cmの長さの筒状の花筒部の先端は5裂する。5本のおしべは花筒内面につき,めしべは1本。橙色に熟す果実液果球形,径6~13cm,数個の種子を有する。種子は円盤状で中央部がくぼみ,中心に小突起があり,径約2cmほど,表面に灰白色の短毛を密生する。インドから東南アジア,さらにオーストラリア北部まで広く分布する。

 マチンの種子を生薬ではホミカ,馬銭子(まちんし),蕃木鼈(ばんぼくべつ)という。1.5~5%のアルカロイドストリキニーネブルシンbrucineなどを含む。これらは中枢神経を興奮させ,中毒すると全身筋肉の強直性痙攣(けいれん)で,背反して死に至る(致死量は0.03~0.1g)。少量用いるときは胃腸の機能を促進させる作用があるので,食欲増進剤とされる。また血圧上昇作用があり,心臓機能低下の際に効果的に働くことがある。原産地インドでは木部を熱病消化不良に用いる。アルカロイドは茎葉にも含まれる。和名は生薬名の馬銭子に由来する。硝酸ストリキニーネは有名な薬物であるが,殺鼠(さつそ),殺虫にも利用され,ときには殺人にまで用いられた。

 マチン属Strychnosは熱帯域に200種ほどもあり,マチンと同様に有毒で薬用や矢毒に利用される種や,無毒で果実が食用になる種がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マチン」の意味・わかりやすい解説

マチン
まちん / 馬銭
poison nut tree
[学] Strychnos nux-vomica L.

マチン科(APG分類:マチン科)の落葉高木。インド、東南アジア、オーストラリア北部に分布し、高さ10~13メートル。葉は対生し、葉柄は長さ4~6ミリメートル、葉身は長さ6~15センチメートルの広卵形で先はとがり、全縁。両面とも無毛で光沢があり、主脈は3~5条。枝端に長さ1.2センチメートルの緑白色の花を集散花序につける。液果は球形で大きく、直径6~13センチメートル、成熟すると橙赤(とうせき)色となり、白色の果肉の中に3~5個の種子をもつ。種子は径15~25ミリメートル、厚さ4ミリメートルの堅い円板形で、淡褐色。表面には長い伏毛が密生し、ビロード様の光沢をもつ。この種子をホミカ、馬銭子(まちんし)、番木鼈(ばんぼくべつ)と称して薬用とする。堅い種皮を砕いて中の仁をとり、おもにエキス、チンキの形で、その微量を強壮興奮剤として無力性消化不良、神経性下痢、神経衰弱、各種の麻痺(まひ)などの治療に用いた。仁にはストリキニーネ、ブルチンなどの猛毒アルカロイドが含まれているため、取扱いや使用量には注意が必要である。なお、アルカロイドは仁だけでなく、果肉、葉、幹、根などにも含まれる。

[長沢元夫 2021年5月21日]

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百科事典マイペディア 「マチン」の意味・わかりやすい解説

マチン

有毒,薬用植物として知られるマチン科の常緑高木。インド〜東南アジア,オーストラリア北部に分布する。葉は革質で卵形,花は茎頂の集散花序に多数つき,帯緑白色。果実は液果で球形,径6〜12cm,だいだい色に熟す。種子は馬銭子(まちんし)またはホミカといい,ストリキニーネ,ブルシンなどのアルカロイドを含有,硝酸ストリキニーネの製造原料とするほか,ホミカエキスとして消化不良,胃アトニーなどの治療に用いる。

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