マツクイムシ

改訂新版 世界大百科事典 「マツクイムシ」の意味・わかりやすい解説

マツクイムシ (松喰虫)

マツ類を加害する害虫の総称。かつてはおもにキクイムシ類,ゾウムシ類,カミキリムシ類のうち,マツにせん孔し加害して枯らす昆虫を呼んでいたが,これらの甲虫はおもにマツが衰弱してからつく。

 現在,本州以南の日本各地で毎年大量に発生するマツ類の枯死を,一般にマツクイムシによる被害と呼んでいるが,真の加害者はマツノザイセンチュウで,これをマツノマダラカミキリ伝播(でんぱ)している。このセンチュウ線虫)はマツが枯死するころ材内で爆発的に増殖し,秋から春にかけて樹幹内につくられたマツノマダラカミキリの蛹室(ようしつ)周辺へ集中してくる。このカミキリのさなぎが成虫になるころセンチュウは脱皮して粘液におおわれた耐久型となり,蛹室壁からカミキリへ移行し,気門から気管の中へ侵入する。1匹のカミキリに平均5000から2万匹のセンチュウがつく。センチュウをもって飛びだしたカミキリは,マツ枝の表皮を食物としてかじりながら分散するが,この傷口からセンチュウは健全なマツの樹体内へ入り,樹脂道を通って移動する。このセンチュウに寄生している細菌がマツの成分を代謝して毒素を生産し,これによってマツの細胞内に変質が起こり,初期病徴として樹脂の分泌が止まり,続いて夏季の高温と乾燥でしおれて枯れる。

 マツノマダラカミキリは羽化脱出後3週間目ころから卵巣が成熟し,衰弱または枯死直後のマツに産卵する。マツの枯れが激しい流行を見せるのは,枯木を通してのセンチュウとカミキリの再生産と,カミキリの分散行動に伴うセンチュウの伝播によるもので,他の原因による枯れとは著しく異なり,健全なマツが突然枯れるという病徴を示す。

 防除法としては,カミキリの発生源となる枯マツの処置と,健全なマツへのセンチュウ侵入を防ぐ殺虫剤の予防散布がある。カミキリによるセンチュウの伝播が2~3kmと広いことから,被害木駆除は広い範囲で行う必要があり,人手や経費の面から完全駆除の困難な場合がある。予防散布による殺虫効果はセンチュウが侵入する6~7月の2ヵ月要求されるが,薬剤によっては2回以上の散布が必要である。根から吸収させる殺センチュウ剤は大径木では効果が悪く,抵抗性マツの研究も進んでいるが実用になるのはまだ先である。
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百科事典マイペディア 「マツクイムシ」の意味・わかりやすい解説

マツクイムシ

マツ類の樹皮下や材部を食べる昆虫の俗称。キクイムシ科(マツノキクイムシ,キイロコキクイムシ,マツカワノキクイムシなど),ゾウムシ科(マツクロキボシゾウムシ,マツキボシゾウムシなど),カミキリムシ科(マツノマダラカミキリなど)など約60種の穿孔性甲虫をさす。マツ類の樹勢が,老衰,乾燥,酸性雨を含む大気汚染,マツケムシマツカレハ)による虫害などで衰弱すると,これらの害虫類が急激に加害し枯死させる場合がある。なお,近年各地でマツ類の枯死が目だち,その原因としてマツクイムシが注目されたが,その多くは枯死木や衰弱木に依存しているため主原因とは見なされなくなった。その後,マツノマダラカミキリと線虫(マツノザイセンチュウ)との共生関係がマツ枯れの原因と考えられるにいたった。すなわち,生木の枝をかじるマツノマダラカミキリが線虫を媒介し,木の内部で増殖した線虫が樹勢を弱らせ,その木にカミキリムシが産卵して幼虫が材部を食い荒し,木が枯れるという図式である。しかし現在では,こうした見解にも疑問が投げかけられ,木の寿命や大気汚染など,さまざまな要因がからみあって大規模なマツ枯れが生じていると考えられている。
→関連項目マツノザイセンチュウ

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世界大百科事典(旧版)内のマツクイムシの言及

【森林保護】より

…また,樹下植栽や複層林施業などによっても気象災害が防除できる。(2)病虫害 各種菌類やウイルスの寄生によって発生するスギ赤枯病,カラマツ先枯病などの樹病や食葉性害虫のマツカレハやマイマイガ,せん孔性害虫のいわゆるマツクイムシ(松食虫),吸汁性害虫のアブラムシなどの虫害は,一度大発生があると,周囲の健全な森林まで被害を受けるため,薬剤による防除,天敵微生物を用いる生物的防除,被害木の伐倒・剝皮・樹皮の焼却を含む総合防除などを行う。マツクイムシ,カラマツ先枯病など特定の病虫害に対しては〈森林病害虫等防除法〉の適用があり,国の補助によって防除が行われる。…

※「マツクイムシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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