マツモムシ(英語表記)Notonecta triguttata

改訂新版 世界大百科事典 「マツモムシ」の意味・わかりやすい解説

マツモムシ (松藻虫)
back swimmer
Notonecta trigutata

半翅目マツモムシ科の昆虫。マツモなどの水草の生えた水中にすむことから名付けられたものであろう。また腹面に多量の空気を蓄えているため,浮心が重心より腹側にあるため腹を上にして泳ぐので,欧米では背泳ぎ虫と呼ばれている。黄色に大きな黒斑のあるボート形の虫で,体長13mm内外,後脚はオール状で長く,発達した遊泳毛列を備える。水中に潜って,前方の4本の脚で水草などに静止するが,ふだんは水面に浮かんで,前・中脚端と尾端を水面につけ,体は水中で斜めに保たれている。後脚は斜め前方にのばされ,いつでも動ける姿勢をとっている。短距離移動しながら餌を探すが,水面に落ちた昆虫その他の小動物による波を水面につけた脚端で感知し,その餌に向かって驀進(ばくしん)し,眼で見つけてとらえる。自分より大きな小魚オタマジャクシも餌とする。春先に水面に浮かんだ物体の下面に100個以上の卵を産みつける。北海道から九州にかけ,また朝鮮半島分布する。この種のほか7種が日本から知られる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マツモムシ」の意味・わかりやすい解説

マツモムシ
Notonecta triguttata

半翅目異翅亜目マツモムシ科。体長 13mm内外。体はやや細長く,背面はふくらみ,腹面は平たい。全体に汚黄白色で,前胸背中央部,小楯板 (しょうじゅんばん) ,爪状部,半翅鞘などは黒色または黒色斑があるが,変異が多い。頭部は幅広く,複眼は大きく暗褐色。前胸背は台形で,前方は頭部と同幅である。後肢は非常に長く,発達した遊泳肢となる。池沼などの静水に普通にみられる水生昆虫で,背面を下にして泳ぐ。小動物を捕え,体液を吸収する。手で捕えると口吻で刺されることがあり,非常に痛い。北海道,本州,四国,九州,朝鮮に分布する。なおマツモムシ科 Notonectidaeは英名を back swimmerといい,その名のとおりすべて背を下向きにして泳ぐ。背面は丸くふくれるが腹面は平たい。後肢は長く,先端が扁平な櫂状となり泳ぐのに適している。呼吸は尾端を水面に出して,腹部末端の気門より空気を取入れる。世界の池沼などに 200種以上が知られ,日本には約 10種を産する。 (→異翅類 , 半翅類 )

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マツモムシ」の意味・わかりやすい解説

マツモムシ
まつもむし / 松藻虫
back swimmer

昆虫綱半翅(はんし)目異翅亜目マツモムシ科Notonectidaeに属す昆虫の総称、またはそのなかの1種。この科の昆虫は体長4~16ミリメートル、水生で背を下にして泳ぐ。体はボートのような形で、前脚と中脚が捕獲脚となり、後脚は長くオールのような遊泳脚となる。日本には約10種が知られる。

 マツモムシNotonecta triguttataは、水草の生えた静水中に普通にみられる。体長13ミリメートル内外、体は黄色で大きな黒斑(こくはん)がある。水生の小昆虫、オタマジャクシ、小魚などを捕食し、不用意に手などでとらえると口吻(こうふん)により刺されることがある。早春、水面に浮かんだ葉の裏に卵塊を産む。琉球(りゅうきゅう)諸島以外の日本全土に分布し、国外では朝鮮半島から知られる。

[林 正美]


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百科事典マイペディア 「マツモムシ」の意味・わかりやすい解説

マツモムシ

半翅(はんし)目マツモムシ科の水生昆虫の1種。日本と朝鮮に分布。体長13mm内外,汚黄色に黒斑がある。池沼,水田などの静水にすみ,水面下を腹面を上にして泳ぐので人目をひきやすい。小魚,オタマジャクシ,他の昆虫などを捕らえて吸血する。捕らえると鋭い口吻(こうふん)で刺し,激しい痛みを感ずる。

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世界大百科事典(旧版)内のマツモムシの言及

【毒虫】より

…また細菌類をまきちらす不潔なハエ類やゴキブリ類は不快害虫として一般には毒虫扱いをされる。そのほかつかまえると口吻(こうふん)で刺されるので痛い,サシガメやマツモムシなどのように反射的行動をとるものもときに恐れられ,また,病原菌を媒介するものもある。害虫不快昆虫【長谷川 仁】。…

※「マツモムシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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