マテバシイ(読み)まてばしい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マテバシイ」の意味・わかりやすい解説

マテバシイ
まてばしい
[学] Lithocarpus edulis (Makino) Nakai
Pasania edulis Makino

ブナ科(APG分類:ブナ科)の常緑高木。高さ10~15メートル、直径1メートルに達する。萌芽(ほうが)性が強く、株立ちになることが多い。樹皮はほぼ平滑で暗褐青灰色。葉は枝先に集中してつき、革質で長さ10~20センチメートル、鋸歯(きょし)はない。雌花序、雄花序とも穂状で、初夏新芽の腋(えき)から斜め上に出す。花は虫媒花。堅果は翌年の秋熟し殻斗(かくと)に浅く包まれ、長さ2~3センチメートル。褐色で白粉を帯び、不明瞭(ふめいりょう)な横輪が入り、底の着点はややへこむ。渋味がなく生食できる。和名マテバシイ語源には諸説があり、葉がマテガイの形に似ているから、という説や、シイより味が落ちるが「待てばシイの実のようにうまい実がなる」という意味である、という説などがあるが、はっきりしない。九州から沖縄の海岸近くに自生し、潮風に耐え、防風林とする。また、本州から沖縄まで、植栽されたものが広く見られる。公害にも強く、都市の緑化樹としてよく用いられる。小枝は細く分枝し、ノリのひびにも使われる。マテバシイ属はアジアの暖帯から熱帯に300種以上あり、とくに中国に多く、柯の字をあて、よく似ているシイ属(栲の字をあてる)と区別している。

[萩原信介 2020年1月21日]

文化史

果実はあく抜きせずに食べられるので、縄文時代人の重宝な食糧であったとみられ、千葉県加茂の縄文前期の貝塚からは、歯形のついた果実が出土している。房総などでは種子をひいて粉にし、ゆでて食べた。『本草綱目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう)』(1803~1806)では薩摩椎(さつましい)として記述されているが、『紀伊続風土記(きいぞくふどき)』(1806年編纂(へんさん)開始)には薩摩椎とともに末天葉椎(まてはしい)の名があがっているが、『熊野物産初志』(1848)では「マテバシヒ」の名のみとなる。マテバシイはその葉がマテガイの形に似るからともされるが、九州や千葉県ではマテジイの名も広く、これはシイよりも細長い果実がマテガイに類似するからといわれる。葉も果実もマテガイを思わせるのでつけられた名といえよう。

[湯浅浩史 2020年1月21日]


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改訂新版 世界大百科事典 「マテバシイ」の意味・わかりやすい解説

マテバシイ
Pasania edulis (Makino) Makino

日本南部の山野に自生し,公園などにも広く植栽されるブナ科の常緑樹。サツマジイともいう。枝葉が放射状に密生し,丸い樹冠を形成する。若枝は淡緑色で,浅い5溝がある。葉は倒披針状長楕円形で全縁,表は深緑色,裏は淡緑褐色。花は6月ころ,新葉がのびきるころに開く。雌雄同株で,雄花は黄緑色,新枝の中部の葉腋(ようえき)に,直立する穂状の花序をなす。6裂する花被に囲まれ,12本のおしべと中心部に毛の密生したみつ腺があり,強いにおいがある。雌花は新枝の上部の葉腋に出る花序につくが,花序の先端部には雄花があり,苞の腋に1~3花がつく。堅果は翌年の秋に熟し,それぞれが基部を鱗片におおわれた椀状の殻斗に包まれている。内に1個の堅果をもつ殻斗が1~3個合着したものが,マテバシイ属Pasaniaの果実の基本的単位である。九州には自生するが,本州に自生のものがあるかどうかは不明。材は薪炭材や器具材など,またシイタケの榾木(ほたぎ)にする。果実(どんぐり)は渋くなく食べられるし,醸造され酒がつくられる。
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百科事典マイペディア 「マテバシイ」の意味・わかりやすい解説

マテバシイ

ブナ科の常緑高木。九州,沖縄の沿海地にはえる。樹皮は暗褐青色。葉は厚く革質で倒卵状楕円形となる。雌雄同株。6月,新枝の葉腋に黄褐色の雄花穂を立て,その上方の葉腋に雌花穂をつける。雌花穂の上部にはしばしば雄花がつく。全体にシイに似るが,果実は楕円形のどんぐりで,鱗片状の殻斗が下部のみを包む点で異なる。四国や本州の暖地にもみられるが古くから植えられているため,どこまでが自然分布かはっきりしない。

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世界大百科事典(旧版)内のマテバシイの言及

【団栗】より

…殻斗は果実の基部の1/3~1/2を包んでいて,完熟した果実は落下時または後に殻斗と離れる。殻斗の表面の模様は種類の特徴をよくあらわしていて,大きく分けると鱗片が配列するもの(コナラ属コナラ亜属やマテバシイ)と,同心円状の輪があるもの(コナラ属アカガシ亜属)とがある。果実の内部には1室があり,普通,1個の種子で満たされる。…

※「マテバシイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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