改訂新版 世界大百科事典
「マラボリア家の人びと」の意味・わかりやすい解説
マラボリア家の人びと (マラボリアけのひとびと)
I Malavoglia
イタリアの小説家G.ベルガの代表作。〈敗北者〉という副題がつけられている。1881年ミラノのトレベス社から出版。全15章から成り,シチリア島カターニア市の郊外アーチトレッツァ村に住む漁民一家の悲惨な生活を描いている。ベルガの作品の英訳に力を注いだD.H.ロレンスは〈あまりにも悲劇的な小説〉と評した。花梨の大木がある屋敷に住み,持船を操って海に生きる,ントーニ親方の一家は,つぎつぎに襲いかかる不幸と不運のなかで,家を失い,船を失って,ほとんど離散するが,最後に残った勤勉な少年がふたたび花梨の木の家を買い戻す,というあら筋。ベルガは航海日誌の断片から見いだしたと称する特殊な文体でこの長編を綴り,近代小説の基盤をなす心理描写をきっぱり排除している。イタリア古来の叙事詩の伝統を散文のうちに再生させたこの作品は,イタリア文学史上はじめて,真の意味での民衆の姿を描きあげた作品として知られており,〈ベリズモ〉の文学運動の幕あけを飾る記念すべき一作とされている。
執筆者:河島 英昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
マラボリア家の人びと
まらぼりあけのひとびと
I Malavoglia
イタリアの作家ベルガの長編小説。1881年刊。いわゆる真実主義(ベリズモ)の代表作。シチリア島東海岸の漁村アーチトレッツァを舞台に、貧しい漁民一家の離散する過程が悲劇的な叙情性のうちに描き出されている。ベルガは、ふとした偶然から手に入れたある船長の航海日誌にヒントを得て、粗削りで非装飾的な文体を駆使し、運命に翻弄(ほんろう)される下層社会の描出に努めている。ベルガによれば、人はみな悠久の時を前にした敗者にすぎない。そこで総合タイトル「敗者」という長編五部作を構想、『マラボリア家の人びと』はその第一巻として刊行されたが、第二巻『マストロ・ドン・ジェズアルド』(1889)までしか発表されず、一部を除き他は未完に終わった。
[河島英昭]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
世界大百科事典(旧版)内のマラボリア家の人びとの言及
【イタリア文学】より
…カターニアもかつては古代ギリシア植民市であり,岸辺に立てばオデュッセウスの漕ぎ去ったばかりの海が静かにひろがっている。その海を舞台に,ベルガはシチリア語から取り出した新しいイタリア語で,一挙に叙事詩の世界をよみがえらせ,長編小説《マラボリア家の人びと》(1881)を書いた。しかもベルガにいたって初めて,イタリア文学は最下層の民衆を文学の世界に写しだしたのである。…
※「マラボリア家の人びと」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」