改訂新版 世界大百科事典 「マルシリウス」の意味・わかりやすい解説
マルシリウス(パドバの)
Marsilius
生没年:1275ころ-1343
イタリアの政治論者。パドバに生まれ,初めこの町で医学を学んだが,後パリに出て哲学と神学とを修めた。1313年にはパリ大学の学長となる。北イタリアやアビニョンに滞在中に得た体験から,ヨーロッパの政治体制についての深い省察を呼びさまされたが,その成果が24年に完成した名著《平和の擁護者》である。平和は社会が達成すべき主たる目標であり,魂の救いに至る唯一の手段であるが,その擁護者はローマ教皇ではなく,神聖ローマ皇帝であるとして,教皇ヨハネス22世と皇帝ルートウィヒ4世との争いでは後者を支援した。その信念は権力の源泉に関する法学的見解に根ざしており,中世特有の教皇・皇帝権の並存・区分論とは基本的に異なるものであった。その意味でマルシリウスは政治思想の新しい進路を指示し,近代的国家観を育成する役割を果たしたが,教皇ヨハネス22世は1327年本書中の5命題を非難し,著者を破門した。
執筆者:今野 國雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報