出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
フランスの小説家,劇作家。古文書学校卒業生である彼は,早くから科学的な文献収集分類方法を習得し,それに加えてトルストイの《戦争と平和》に強烈な感動を覚えた。後年の小説家の基調はここに定まったといえる。処女作《生成!》(1908)の出版の後,1913年の《ジャン・バロア》はジッドに認められたのみならず,《NRF(エヌエルエフ)》系の文学者たちのおおかたの好評を博した。戯曲風の対話を中心に構成されているこの小説では,ドレフュス擁護派の青年の,科学と信仰,個人的正義と社会の秩序維持の相克の苦悩などが鮮明に描かれている。小説では深刻な時代的問題と格闘した彼であるが,ジャック・コポーとの親交から生まれた戯曲《ルルー爺さんの遺言》(1914),《水ぶくれ》(1928)等は,農村生活を題材にした笑劇である。しかし,今日彼の名を不朽にしているのは,なんといっても輝かしい大河小説《チボー家の人々》(1922-40)であろう。ここでは,20世紀初頭のフランスのさまざまな激動のドラマが歴史の壁画風に描かれている。キリスト教の新旧両教徒の2家族,新旧両世代,正反対の気質の兄と弟,科学的合理主義と革命的ロマン主義などがこの大作のなかで激しくせめぎ合っている。第1次大戦勃発の前後を感動的に描いた大作第7部《1914年夏》(1936)によって,彼は1937年のノーベル文学賞を受けた。遺作《モモール大佐の回想》は未完結で,いまなお未刊である。
執筆者:若林 真
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※「マルタンデュガール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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