マルティニク(英語表記)Martinique

改訂新版 世界大百科事典 「マルティニク」の意味・わかりやすい解説

マルティニク
Martinique

フランスの海外県の一つ。カリブ海,ウィンドワード諸島中の火山島。面積1110km2,人口39万7732(2006)。主都はフォール・ド・フランス。地形は山地部が多い。1902年にプレー山(1397m)が大爆発してサン・ピエールの町が壊滅し,約3万人が死亡した。住民は黒人が多く,旧フランス領インドシナからの移民子孫もいる。1493年コロンブスによって〈発見〉されたが,1635年にフランス人が植民を始めて以来フランス領である。サトウキビ栽培のため黒人奴隷が大量に導入されたが,1848年奴隷制は廃止された。1946年,ギアナ,グアドループとともにフランスの海外県となり,さらに74年には〈地域圏(région)〉の地位も与えられた。本国から知事が派遣される一方,本国の下院に4名,上院に2名の代表を選出している。知事は本国の代表として,36名の公選議員から成る総合会議を総括する。このほかにより広範な社会的・経済的問題を扱う地域圏議会がある。フランス語が公用語,商業用語であり,宗教カトリックが大半を占めている。あまり観光化されていないカーニバルが見られ,灰の水曜日の行事が有名である。

 フランスの植民地であり,住民のほとんどは奴隷としてアフリカから連れてこられた人々とその子孫から構成されてきたという背景の中で,マルティニクは欧米の白人による植民地支配を批判し,アフリカおよびアフリカ系の黒人のアイデンティティの確立を目指す立場にたった重要な思想家を生み出してきたことでも知られている。ネグリチュード運動の創始者の一人で作家であり政治家でもあるエメ・セゼールと,白人支配に対する革命の必要を説きアルジェリアの対仏独立戦争にも参加した精神科医であり思想家でもあるフランツファノンはその代表的存在である。

 産業は農業が中心で,可耕地8万3000haのうち,耕地は3万ha。バナナ,サトウキビが主で,パイナップル,野菜の栽培も増えている。3万2000haの森林地帯は樹種が豊富で,マホガニーの植林も行われる。漁業資源にも恵まれ,近年は遠洋漁業と魚類加工が始められている。工業は砂糖とラム酒の製造が中心で,ほかに石油精製,ビール醸造,果物加工などがあるが,最近は本国により産業の近代化が進められ,消費財産業の優遇,島内への投資,ホテル経営への免税が行われている。輸出はバナナ,砂糖,パイナップル,ラム酒が主で,輸入品は食料,衣類,機械など。フランス本国との貿易が全体の80%を占めている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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