日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
マン(Thomas Mun、貿易商人)
まん
Thomas Mun
(1571―1641)
イギリスの貿易商人、重商主義期の理論家。貿易商として活躍し、のち東インド会社の重役となった。1620年に始まる不況期に、貨幣不足の原因として同社の銀輸出が非難の的となった際、『東インド貿易論』A Discourse of Trade, from England unto the East-Indies(1621)を公刊し、一般的貿易差額論の立場から会社を弁護した。のち不況の原因や対策をめぐって一連の経済論争が生じたが、彼は貿易委員会で活躍しつつ、しだいに貿易差額論を整備した。さらにこれを体系化して主著『外国貿易によるイングランドの財宝』England's Treasure by Foreign Trade ……(1664)を著した(執筆はほぼ1626~30年)。これによってマンは、中継貿易のみに基づく単なる貿易差額論ではなく、元本の増大に基礎を置く一般的貿易差額こそ一国の富の基準であるという重商主義の原理を確立した。しかしこの元本論も商業資本の運動からとらえたものであり、生産過程そのものの分析を経たものではなかった。彼の理論は、その後多くの重商主義者の古典とみなされるようになり、重商主義を批判したアダム・スミスによっても、イギリスだけでなく他のすべての商業国の経済政策の基本的信条となったと評価された。
[田中敏弘]