マンサク(読み)まんさく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マンサク」の意味・わかりやすい解説

マンサク
まんさく / 満作
[学] Hamamelis japonica Sieb. et Zucc.

マンサク科(APG分類:マンサク科)の落葉小高木。高さ10メートルに達する。幹は灰褐色。葉は菱(ひし)状倒卵形で、長さ5~10センチメートル。葉の展開に先だち、2~3月、葉腋(ようえき)から出た短枝に1~2個の黄色花を開く。果実蒴果(さくか)。名は、早春に花が枝いっぱいにつく状態を豊作に例えたもの。山地に普通に生え、東北地方南部以西の本州の太平洋側、および四国九州に分布する。変種マルバマンサクは、葉は広倒卵形で先端が丸い。北海道南西部、東北地方以西の本州の日本海側に分布する。ともに樹皮は強靭(きょうじん)で、棚や籠(かご)材にするほか、薪(まき)の結束に用いられる。

 マンサク属は6種からなり、東アジアと北アメリカに隔離分布する。

[門田裕一 2020年5月19日]

文化史

マンサクの名は『四季賞花集(しきしょうかしゅう)』(1805)に初見するが、マンサクの異名とされるアオモミは、それより先『聚芳帯図左編(しゅうほうたいずさへん)』(1727)に記載されている。『茶席挿花集(ちゃせきそうかしゅう)』には捻臘花(ねんろうか)の漢字があてられている。江戸後期にはいけ花にも使われた。マンサクの中国名は金縷梅(きんろうばい)であるが、これは正確には中国産で近縁シナマンサクH. mollis Oliv.をさす。マンサクの語源について、飯沼慾斎(いいぬまよくさい)は『草木図説』(1856)で、「まづ咲くの意ならん」と記している。ほかにも「満作」「満咲く」、果実がしいな状であることを嫌ってしいな(不作)に対する反対語である(中村浩『植物名の由来』)などの諸説がある。マンサクとよばれる植物は、ほかに北海道や東北のフクジュソウ、東北南部のキクザキイチゲがある。それらはいずれも早春野外で真っ先に咲く草花であることからすると、マンサクの名の由来は「まず咲く」説が有力である。

[湯浅浩史 2020年5月19日]


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改訂新版 世界大百科事典 「マンサク」の意味・わかりやすい解説

マンサク
Hamamelis japonica Sieb.et Zucc.

黄色い紐のからんだような花をつけるマンサク科の落葉小高木。和名は春真っ先の開花,あるいは花が枝に満ちるさまにちなむという。高さ10m,径30cmに達し,樹皮は淡灰褐色,当年枝は星状毛をおびる。冬芽は裸芽で柄がある。葉は互生し,ひし状円形ないし倒卵形で,長さ4~12cm,先端はやや鋭形で上半に深い波状鋸歯がある。表面は深緑色で光沢があり,裏面の星状毛はまもなく落ちる。黄・紅褐色に色づき翌春まで枝に残る。2月ないし4月前年枝の葉腋(ようえき)に葉より早く2~3個の両性花が開く。萼の内側に初め内巻きする4個の花弁があり,線形に伸びて長さ13~20mmとなる。黄色ないし帯赤黄色で,まれに赤紫色のものもある。おしべは4本。9~10月星状毛におおわれた球形の蒴果(さくか)ができ,2裂して2個の黒い種子を出す。北海道渡島半島から鹿児島県高隈山までの温帯と暖帯上部に分布し,山地の適潤地や尾根にはえる。北陸地方から北海道の日本海側に分布するものは,葉の上半部が最も広く円いのでマルバマンサクvar.obtusata Matsum.という。中国地方と四国には葉両面の星状毛がながく残るアテツマンサクvar.bitchuensis (Makino) Ohwiがある。

 マンサクは枝をねじっていかだや合掌造の骨組みを結わえると,たいへん強靱でゆるまない。早春の花木あるいは庭木としても親しまれる。

 マンサク属Hamamelisは東アジアと北アメリカに7種が産し,中国大陸のシナマンサクH.mollis Oliv.(中国名,金縷梅)は花が属内で最も美しいといわれる。アメリカマンサクH.virginiana L.(英名witch-hazel)は秋咲きである。
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百科事典マイペディア 「マンサク」の意味・わかりやすい解説

マンサク

マンサク科の落葉低木〜小高木。北海道南西部〜九州に分布し,山地にはえる。葉は菱形状楕円形で厚く,縁には波状の鋸歯(きょし)がある。2〜4月,葉の出る前に前年枝の節に数個の花を開く。花弁は4枚,黄色で折れ曲がったような線形をなし,萼片(がくへん)は4枚で内面暗紫色となる。果実は密に毛があり秋に黄褐色に熟し,2裂して黒色の種子を出す。庭木とする。

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