ミズクラゲ(読み)みずくらげ

改訂新版 世界大百科事典 「ミズクラゲ」の意味・わかりやすい解説

ミズクラゲ (水水母)
Aurelia aurita

ハチクラゲ綱ミズクラゲ科に属する腔腸動物刺胞動物)。生殖腺の形からヨツメクラゲ(四ツ目水母)とも呼ばれる。日本近海にごくふつうに見られる。また寒流域を除いたほぼ全世界の海に分布している。傘は円盤状より多少盛り上がり,直径が20~30cmの個体が多く,まれに40cmになるものもある。傘の縁は8等分していて,その境ごとに感覚器があり,また縁の上方から小さい触手が1列に密生している。口腕は4本で大きく,下側中央に溝があって,その溝が合一するところに口が開いている。

 雌雄異体で,一生の間に有性生殖をするクラゲの世代と無性生殖をするポリプの世代とが交互に現れる世代の交代を行う。繁殖時期は福井県では3~5月,青森県では7~8月ころが盛期である。4個の生殖腺が熟すると雄では乳白色,雌では薄いピンク色か紫色または褐色になって馬蹄(ばてい)形状にはっきり見えるようになる。精子は体壁の穴から海水中にでて雌の体内に入り,胃腔内に放出された卵と受精する。胃腔内で発生がすすんでプラヌラ幼生となり,口から出てしばらくの間,口腕の各所について生活する。親クラゲは湾内の奥部か波の静かな浅海で産出する。親クラゲの口腕から遊離したプラヌラ幼生はしだいに沈降してホンダワラ,アマモ,カニ類の甲ら,小石,ムラサキイガイの殻などいろいろなものの上に付着して,体長1~2mmの小さな鉢ポリプになる。ムラサキイガイ1個の貝殻に100個体以上のポリプがついていた例もある。

 ポリプが大きくなり,16本の触手のうち,1本おきに8本が短くなってついには吸収されてしまい,その基底部に花びらのような弁が8枚できる。やがて残りの触手も吸収されてしまう。ポリプの体に横のくびれがたくさんでき,縁が花びらのように変化し,数枚から十数枚が重ね合ってストロビラになる。そしてしだいに上のほうから離れて泳ぎだし,エフィラになる。エフィラは成長するにつれ8枚の弁の間の盲管の部分が広がっていき,口柄の四隅がのびて口腕ができる。盲管はのちに放射管になり,多くの分枝ができる。浮遊生活に入って間もない初期のエフィラは湾奥に濃密に分布しているが,漸次分布密度が低くなり,若いクラゲになると湾奥ではほとんど見られなくなる。各地で,ミズクラゲの成体火力発電所の冷却水取入口に大量に押し寄せ,そのために操業不能になったことがある。
クラゲ
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミズクラゲ」の意味・わかりやすい解説

ミズクラゲ
みずくらげ / 水水母
[学] Aurelia aurita

腔腸(こうちょう)動物門ハチクラゲ綱旗口(はたくち)クラゲ目ミズクラゲ科に属する海産動物。傘は円盤状で、普通、直径10~20センチメートルほどであるが、ときには30センチメートル以上に達することがある。ほとんど透明の傘を通して、傘の中央近くに4個の赤褐色ないし紫色の馬蹄(ばてい)形の生殖腺(せん)が傘の寒天質中に埋まっているのが見える。これが四つの目のように見えるのでヨツメクラゲともよばれる。傘の周縁には多数の短い触手が並び、また8個の平衡器がみられる。傘の下面中央に口が開き、それに続く胃腔からは多数の放射管が周縁の環状管に向け枝分れしながら伸びている。口を取り囲んで外側に4本の長い口腕(こうわん)が垂れ下がっているが、各口腕には多くのひだがあり、またそのひだの縁には多数の小触手が並んでいる。本種の生活環はよく知られており、受精した卵が、プラヌラ幼生→幼ポリプ→ストロビラ→エフィラを経て、成体となっていく過程は実験室で容易に観察できる。北海道から琉球(りゅうきゅう)諸島までの沿岸で、冬から夏までの間きわめて普通にみられる。ときに大量に発生し、それが沿岸の火力発電所の冷却水取り入れ口をふさぎ、そのため停電騒ぎをおこすことがある。太平洋、大西洋、インド洋、そのほか世界の温帯海域に広く分布する。

[山田真弓]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミズクラゲ」の意味・わかりやすい解説

ミズクラゲ
Aurelia aurita

刺胞動物門鉢虫綱旗口クラゲ目ミズクラゲ科。傘は半球形より低く,直径 15cm内外であるが,ときに 30cm以上にもなる。傘の縁に短い触手が 1列に密生する。口腕は 4本で,細長い葉を葉脈に沿って二つ折したような形をしている。放射管はやや青みを帯び,生殖巣は紫ないし褐色である。生殖期には 4個の馬蹄形の生殖巣がはっきりするため,ヨツメクラゲとも呼ばれる。遊泳能力は低いが,世界中の温暖な海に広く分布し,刺胞はあるが毒性は弱く,刺されてもほとんど痛みを感じない。日本近海でも普通に見られる。ときに大発生し,漁網に大量に入ったり,臨海火力発電所で冷却用水の取水口に多数の個体が吸い寄せられたりするなど,害を与えることがある。(→クラゲ刺胞動物鉢虫類無脊椎動物

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百科事典マイペディア 「ミズクラゲ」の意味・わかりやすい解説

ミズクラゲ

ハチクラゲ綱ミズクラゲ科の腔腸(こうちょう)動物。傘(かさ)は円盤状で平たく,直径は20〜30cm。寒天質は柔らかい。傘の縁には短い触手が密生。寒流域を除く全世界の海に分布し,日本近海に最も普通な種類で,冬〜夏に湾内などによく出現する。利用価値はない。雌では熟すると褐色あるいは紫色の4個の生殖腺をもち,その形からヨツメクラゲの名もある。

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世界大百科事典(旧版)内のミズクラゲの言及

【イボダイ】より

…全身銀白色。福井にはミズクラゲが大発生した年はイボダイの漁獲が多いという言い伝えがあるが,エチゼンクラゲ,ミズクラゲと共生する。クラゲはイボダイ,とくに稚魚の餌料となる。…

【クラゲ(水母)】より

ジュウモンジクラゲ類の体はポリプの先にクラゲがついた形で,ふつうのクラゲのように浮遊せずに海藻や他のものに付着して生活する。ハチクラゲ類の代表的なミズクラゲ(イラスト)の傘は8区分され,その境ごとに感覚器がある。口から短い食道を経て胃腔になり,続いて4個の胃囊に連絡する。…

【腔腸動物】より

…ポリプとクラゲの両方の型をもつものが多いが,一つの生活史で両方の型が明らかにされている種類はそう多くはない。北海道の厚岸(あつけし)地方に産するキタクラゲや淡水産のマミズクラゲなどはクラゲの直径が20mmほどで容易に気がつくが,キタクラゲのポリプは高さ0.3~0.5mmで1本の触手をもっているにすぎず,またマミズクラゲのポリプは1mmほどで長い触手をもたず,ときに泥をかぶっているので簡単には発見できない。 ギサンゴやイタミレポラのようなヒドロサンゴ類は共肉が石灰質を分泌してかたい骨格をつくるが,ポリプには餌をとらえる指状ポリプと餌を消化する栄養ポリプの2種類があって分業している。…

【世代交代】より

…そして,この動物では有性生殖を行って単独で生活する世代と,無性生殖を行って群体生活を営む世代が交互に現れるために,この現象をデンマークのステーンストルプJ.J.S.Steenstrup(1813‐97)が〈世代交代〉と呼んだ(1841)。 日本の沿岸に多いミズクラゲも明りょうな世代交代を行う。海中に浮遊する通常のミズクラゲは有性世代で,卵と精子を生じるが,その受精卵が発達して孵化(ふか)すると,繊毛をもって海中を遊泳するプラヌラplanulaという幼生となる。…

※「ミズクラゲ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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