ミツスイ(読み)みつすい(英語表記)Australian honeyeater

改訂新版 世界大百科事典 「ミツスイ」の意味・わかりやすい解説

ミツスイ (蜜吸)
honeyeater

スズメ目ミツスイ科Meliphagidaeの鳥の総称。この科には39属約170種の小型ないし中型の鳥が属している。全長10~43cm。羽色は一般にじみな緑色,灰褐色,オリーブ褐色などのものが多く,雌雄はふつう同色である。しかし,ミツスイ属Myzomelaでは雌雄は多少とも異色で,雄は頭頸とうけい)部や腰に鮮やかな赤色羽毛がある。また,羽色はじみでも,飾羽,肉垂(にくだれ),額のかぶと状突起などが発達している種もある。

 この科はオセアニアに広く分布し,とくにニューギニアとオーストラリアにすんでいる種が多い。ミツスイ類の特徴の一つは食性と舌で,どの種も花みつを好み,花みつを吸うために,舌は先端が四つに分かれた刷毛状をしている。ただし,食物は花みつに限られているわけでは決してなく,漿果(しようか),果物,種子,小型の昆虫類やクモなどを主食としている。ミツスイ類のなかには,花粉や種子の重要な媒介者となっているものがある。くちばしは比較的細長く,先がとがり,下に少し湾曲している。ジャングル,低木林,マングローブ林,公園,庭園などさまざまな環境にすみ,生態のよく似た種は,しばしば分布区域や標高や採食場所によってすみ分けている。ミツスイ属の鳥はふつう単独かつがいで生活しているが,他の多くのミツスイ類は小群または数種の混群で見られる。ほとんど樹上で過ごし,地上におりて採食することは少ない。

 巣は植物の繊維などを主材としてつくられ,やや粗雑なわん形で,枝の下につり下がっている。例外的に,横に入口のついた壺状の巣をつくるものがある。種によっては,1ヵ所に20つがいくらいが集まって集団営巣する。卵は,白色やピンクの地に,暗褐色斑点が散在している。1腹の卵は2~4個。営巣,抱卵,育雛(いくすう)は主として雌の役目で,雄は育雛を少し手伝うだけしかしない。鳴声は,チュッ,チュッと聞こえる鋭い声のほか,いろいろな声をもち,また大型種以外はみなよい声でさえずる。種によっては,グループでさえずったり,数羽で二重唱や三重唱を歌う。日本には,ミツスイ科の鳥として,小笠原諸島メグロApalopteron familiareが分布しているが,メグロがほんとうにミツスイ科の鳥なのかどうかは疑わしい点もある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミツスイ」の意味・わかりやすい解説

ミツスイ
みつすい / 蜜吸
Australian honeyeater

鳥綱スズメ目ミツスイ科に属する鳥の総称。この科Meliphagidaeの仲間は、南太平洋の諸島からニューギニア島、オーストラリアにかけて広く分布する。日本にはメグロ1種がいるだけであるが、170種ほどを含む大きい科である。全長10~45センチメートルと小形から中形のグループであるが、大きさ、形ともにさまざまで、大いに多様化している。色も、目だたない草褐色のものから色彩豊かなはでなものまでさまざまである。その生活域も幅広く、ユーカリ林から亜熱帯降雨林、あるいは半砂漠の低木林とほとんどの林にみられる。大部分の種の嘴(くちばし)は細く長めで、先が鋭くとがり、多少なりとも下方へ湾曲している。舌には深い縦溝があり、長くて、嘴の外へ押し出すことができ、先はブラシのようになっていて花蜜(かみつ)を吸い取るのに適している。しかし花蜜食だけでなく、ほとんどの種は果実や昆虫も食べ、ほかの小鳥の雛(ひな)を襲うものもあるし、大形のものはトカゲやカエルを食べる。多くのものが顔に花の花粉をつけて運び、受粉に役だっているといわれる。ハゲミツスイPhilemon corniculatusは群れて騒がしく、ミミジロミツスイLichenostomus leucotisはシジュウカラに似た種であり、クレナイミツスイMyzomela sanguinolentaは紅色をしている。

[中村登流]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミツスイ」の意味・わかりやすい解説

ミツスイ
Meliphagidae; honeyeaters

スズメ目ミツスイ科の鳥の総称。約 180種からなり,全長 8~50cm。体はややほっそりとしており,は細く,湾曲している。羽色は,オリーブ色,黒,白,褐色,赤褐色など全体に地味であるが,一部の種には赤色の鮮やかな部分がある。花蜜食に適応,進化してきた鳥で,花に細い嘴を差し込んで花蜜をなめとるのに適した舌をもっている。舌は全体が左右から内側へやや巻き込んだような構造になっていて,先端が 4本に分かれ,その周縁部はブラシ状になり,花蜜に浸しては嘴に引っ込める。それを 1秒間に 10回以上もの速さで行なう。ほとんどの種はオーストラリア区熱帯から亜熱帯域に分布している。動物地理的に異なる東洋区には 1種だけが分布し,インドネシアサメイロミツスイ Lichmera limbataバリ島からティモール島にかけて生息する。

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百科事典マイペディア 「ミツスイ」の意味・わかりやすい解説

ミツスイ

ミツスイ科の鳥の総称。約170種ある。大きさはいろいろだがスズメより小さいものが多い。くちばしは一般に細くて長く,舌がブラシ状で花蜜を吸うのに適するが,昆虫,果実を食べるものもある。羽毛は大部分のものが暗色で,雌雄での違いはない。アフリカ産の1種を除き,オーストラリア〜南太平洋に分布。日本では小笠原諸島にすむメグロがミツスイ科とされている。生態的に種々に分化し,さまざまの環境にすむ。

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