ムツゴロウ(読み)むつごろう(英語表記)bluespotted mud hopper

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムツゴロウ」の意味・わかりやすい解説

ムツゴロウ
むつごろう / 鯥五郎
bluespotted mud hopper
[学] Boleophthalmus pectinirostris

硬骨魚綱スズキ目ハゼ科に属する水陸両生魚。陸上生活に適応して、両眼は頭頂部に突出し、陸上で遠視がきく。皮膚は厚いが皮膚呼吸ができる。胸びれが発達し、それを用いて干潟の泥上をはい回る。体色は青みを帯び、淡色の小点が散在全長23センチメートルに達する。日本、朝鮮半島、中国、台湾などに分布。日本では有明(ありあけ)海と八代(やつしろ)海の一部のみに産する。河口域の軟泥中に巣孔(すあな)をつくってすむ。干潮時に巣孔の入口付近の泥面に付着する藻類を上顎歯(じょうがくし)で剥(は)ぎ取って食べる。有明海での産卵期は5、6月で、巣孔の中に卵を産み付ける。仔魚(しぎょ)は河口域で1か月半ほど浮遊生活を送り、2センチメートル未満の若魚に成長したのち、単独で両生生活へ入る。春から秋に活動し、冬には巣孔の中で休止する。生後2年で成熟し、寿命は7、8年に及ぶ。有明海ではムツとよばれ、各種の漁具でとられて食用とされている。台湾では天然種苗を用いて養殖が行われている。

[道津喜衛]

料理

肉は柔らかく、脂肪も比較的多い。代表的な料理は蒲(かば)焼きで、佐賀県の郷土料理の一つにもなっている。ムツゴロウは生きたまま蒲焼きにする。口から串(くし)を刺して素焼きにし、しょうゆみりん、酒、砂糖をあわせたたれを2、3回つけながら焼き上げる。焼きたてを食べるのが最高だが、土産(みやげ)物として蒲焼きの缶詰も売られている。このほか刺身みそ汁、鍋(なべ)物にも用いられ、乾燥したものはうどんなどのだしとしても使われる。

[河野友美]


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改訂新版 世界大百科事典 「ムツゴロウ」の意味・わかりやすい解説

ムツゴロウ (鯥五郎)
bluespotted mud hopper
Boleophthalmus pectinirostris

スズキ目ハゼ科の魚。水陸両生魚である。東南アジア,中国,朝鮮半島沿岸に分布するが,日本では九州の有明海とそれに隣接する八代海のみに見られる。体色は緑色を帯びた灰色で,淡色の斑点が散在する。第1背びれが長く,胸びれはその基部が肉質に富み,干潟上をはい回るのに適している。両眼は頭頂部から突き出ており,自由に動かせる。水から出ているときには,口の中に水を含み,えら,口腔内の粘膜,さらに皮膚,鰭膜(きまく)を通して呼吸している。各個体ごとに干潟に穴を掘ってすむ。生息する穴から遠く離れることはなく,干潮時に周囲1m2ほどの範囲の干潟泥上の付着ケイ藻をけずりとって食べる。産卵期は5~8月で,雄の求愛ジャンプに誘われた雌と産卵室上面に約5000粒ほどの楕円形卵(1.4mm×0.7mm)を産みつける。仔魚(しぎよ)は浮遊期を経て,体長約2cmで着底する。全長20cmになる。穴掘り,わな,ひっかけかぎで捕獲し,蒲焼などにして美味。
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百科事典マイペディア 「ムツゴロウ」の意味・わかりやすい解説

ムツゴロウ

ハゼ科の魚。地方名ムツ,コムツなど。全長20cm程度。水陸両生魚である。体色は青みがかった灰色で,第1背びれのとげは比較的長い。腹びれは左右合わさって吸盤を形成。眼を高くもちあげることができる。朝鮮半島〜東南アジア,日本では有明海八代海に分布。干潟の上をはい回り,また全身ではねて移動する。水からでているときは,口の中に水を含み,鰓,口腔内の粘膜,さらに皮膚,鰭膜(きまく)を通して呼吸する。肉はやわらかいが脂肪が多く蒲焼(かばやき)などにして美味。佐賀県の名物。絶滅危惧IB類(環境省第4次レッドリスト)。
→関連項目肥前鹿島干潟

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ムツゴロウ」の意味・わかりやすい解説

ムツゴロウ
Boleophthalmus pectinirostris

スズキ目ハゼ科の魚。食用。全長 20cm内外。暗緑色の地色にコバルト色の斑点をもつ。体は側扁し,頭の背方に両眼が相接してついており,トビハゼを思わせる。第1背鰭の棘条は軟らかく,先端が糸状に伸びている。左右の腹鰭は吸盤を形づくっている。また胸鰭の筋肉はよく発達しており,自由に鰭を動かして歩行することができる。泥底の干潟にすみ,泥中に深い穴をつくり,危険が迫ると穴中に逃げ込む。長時間水から出て行動することができる。九州の有明海,朝鮮,中国,ミャンマーに分布する。

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世界大百科事典(旧版)内のムツゴロウの言及

【有明海】より

…沿岸の干拓地は溝渠(こうきよ)網にめぐらされた九州最大の筑紫平野を形成し,米作を中心とする日本の農業の先進地となっている。沿岸では日本一の生産量を誇るノリ養殖のほか,モガイ,アサリ,アゲマキ,タイラギなどの魚介類の採取が多く,はね板(ガタスキー)を利用しての珍奇なムツゴロウとりは,干潟の代表的風物詩である。このほか特産のウミタケ,生きている化石オオシャミセンガイ,有明海のみにいる美しい〈エツ〉(カタクチイワシ科の魚)など貴重な生物が生息している。…

※「ムツゴロウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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