モッ(英語表記)mǒt

改訂新版 世界大百科事典 「モッ」の意味・わかりやすい解説

モッ
mǒt

朝鮮における美意識,価値観を表す語。明確な定義はなく人によって異なる。芸術の諸分野における理想的概念としてもとらえられる。日本の〈いき〉〈わび〉やフランスの〈エスプリ〉などと同様,固有文化を象徴する語。モッはまず形や表現の美において〈かっこういい〉こと(粋な姿態)があげられ,規格から逸脱し,単調・無味から脱した微妙な変化に求められる。静止の美ではなく流・律動の美,線の中でも曲線美において,歪形,奇抜,諧謔において,遊戯の気分,興に乗る無心の状態からモッは感じられる。例えば舞踊,パンソリ農楽伽藍の屋根の勾配などにモッの美はある。精神的な美としてのモッは非実用性,非功利性にあり,悠々自適,自在の境地の楽天性,あるいは〈殺身成仁〉の気概にモッの美的衝動が感じられる。モッのあるさまを示す言葉として,風流,磊落(らいらく),毅然,啖呵乱調妙技,超然,意気,義気などがあげられよう。日本の〈いき〉にもモッは感じられるが,〈いき〉が〈垢抜けして(諦),張のある(意気地),色っぽさ(媚態)〉と定義され(九鬼周造),どちらかというと一種の緊張関係が基調をなしているのに対して,モッは〈自由・奔放〉のうちに,現象の〈真髄〉を感じ,人間実存の〈無限の飛翔〉を夢みる美意識といえるのではないか。モッは自然の内なる美的感覚であるが,〈誇張〉〈虚飾〉に陥る否定的な面も大きいといえよう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のモッの言及

【朝鮮文学】より

…こうした農耕儀礼や宗教的儀式を主宰する巫覡(ふげき)(シャーマン)の祝詞は神話の始源であり,群衆による歌と踊りは民謡の源流である。朝鮮民族は情熱的な民族で,その国民性は楽天的で〈モッ〉とよばれる風流やしゃれた感覚をこよなく愛する。またその言語は感性的な表現に適し感覚的な語彙に富む。…

※「モッ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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