ヤツデ(読み)やつで

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤツデ」の意味・わかりやすい解説

ヤツデ
やつで / 八手
[学] Fatsia japonica Decne. et Planch.

ウコギ科(APG分類:ウコギ科)の常緑低木。名は、八つ手の意味で、手のひらを広げたような葉の形に由来する。高さ2~3メートルになり、樹皮は灰白色で枝分れが少ない。葉は長い柄があり、枝の先に集まって互生する。葉質は厚く、掌状に7~9裂する。径20~40センチメートル、裂片は卵状長楕円(ちょうだえん)形で先がとがり、縁(へり)に鋸歯(きょし)がある。10~12月、枝の先に大形の円錐(えんすい)花序をつけ、白色五弁の小花が球形に集まって開く。雌花雄花があり、雄しべは5本、花柱も5本ある。果実は小球形で径約8ミリメートル、翌年の4月に黒く熟す。そのころ花序は前に倒れている。品種にシロフヤツデ、フクリンヤツデ、キモンヤツデなどがあり、ともに庭木として植えられている。成長はやや遅いが、耐陰性が強く、移植は容易である。繁殖は実生(みしょう)、挿木株分けによる。福島県以西の本州から九州、沖縄など暖地の海岸近くの山林に生え、適潤地でよく育つ。

[小林義雄 2021年11月17日]

文化史

特異な葉をもつ日本の植物だが、認識は遅く、元禄(げんろく)時代(1688~1704)の園芸書には名をみない。貝原益軒(えきけん)も『花譜』(1694)では触れず、『大和本草(やまとほんぞう)』(1709)で「西州に多し……京畿(けいき)にて未(いま)だこれを見ず」と解説した。自生は東北地方南部に至るので、当時まだ栽培が京畿以東では行われていなかったとみられる。『草木奇品家雅見(かがみ)』(1827)には、葉が白く覆輪(ふくりん)したフクリンヤツデを載せる。ヤツデの名は八手に基づくが、葉の切れ込みは7、9、11と通常奇数で、9が多い。それを8としたのは、縁起を担いだと思われる。魔除(まよ)けや疫病除けに庭に植えたり、門口に吊(つ)るす風習があった。学名のファツシアは八手の漢字読みのハッシュによる。18世紀にC・P・ツンベルクがヨーロッパに紹介した。実物はシーボルトが19世紀に伝えた。

[湯浅浩史 2021年11月17日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ヤツデ」の意味・わかりやすい解説

ヤツデ (八手)
Fatsia japonica Decne.et Planch.

ウコギ科の株立ちになる常緑低木。まばらに枝を出し,庭木や鉢植えに広く植栽され,日陰や大気汚染の激しいところでもよく育つ。高さ2~3mになり,葉は幹の先に束生状に互生して長柄があり,葉身は掌状に7~9裂して,厚く滑沢があり,濃緑色。11月に球状になった散形花序が集まり,大きな(長さ20~40cm)円錐花序をつくる。花弁とおしべは5個,柱頭も5本で,子房下位。5室からなる果実は翌年の4~5月に紫黒色に成熟し,1果に種子を5個入れる。よく発芽,生育する。本州では福島県以南,四国,九州,沖縄など海岸の林下に自生する。葉は薬用になり,南九州や南西諸島では牛の飼料にもされる。園芸品種としては葉変りの品種があり,フクリンヤツデ,キモンヤツデ,シロブチヤツデなどの斑入葉の品が栽培されている。またヤツデとセイヨウキヅタの属間雑種が観葉植物として園芸的に栽培され,ファッツヘデラFatshederaと呼ばれている。
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百科事典マイペディア 「ヤツデ」の意味・わかりやすい解説

ヤツデ

本州(福島県以南)〜沖縄の沿海地の林内にはえるウコギ科の常緑低木。庭木として多く植えられ,日陰や大気汚染の激しいようなところでもよく育つ。高さ2〜3mになり,葉は互生し,長柄があって大型で掌状に7〜9裂し,革質で光沢がある。11月,茎頂から大きな円錐花序を出し,白い小花が多数,球状につく。果実は5月,黒熟。実生(みしょう)またはさし木で繁殖。斑入(ふいり)など葉変りの園芸品種もある。

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