ヤナギイチゴ(読み)やなぎいちご

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤナギイチゴ」の意味・わかりやすい解説

ヤナギイチゴ
やなぎいちご / 柳苺
[学] Debregeasia orientalis C.J.Chen

イラクサ科(APG分類:イラクサ科)の落葉低木。葉がヤナギのように細長く、果実がキイチゴの集合果のように見えることからこの名がある。茎は高さ2~3メートル。枝はまっすぐで細長い。葉は枝の先端近くにやや集まって互生し、短い柄(え)があり、披針(ひしん)形で長さ6~20センチメートル。葉脈は表面でへこんで細かい網目をつくり、葉裏は綿毛を密生して白色。雌雄異株。花は春に古い葉の落ちたあとの腋(えき)につき、雌雄ともに短い柄の先に球状に多数密集した花序をつくる。雌花序は開花後1月ほどで結実し、花被片(かひへん)は著しい多汁質となって果実を包み、花序全体として直径7ミリメートルほどの橙(だいだい)色の球状となり、甘くて食べられる。関東南部以西の本州の太平洋側と四国、九州から沖縄にかけて、河原や伐採跡地などの撹乱(かくらん)された場所に生育し、国外では台湾から中国大陸にかけて広く分布する。中国名は水麻。ヤナギイチゴ属は約6種からなる小さな属で、東アフリカから東南アジア、東アジアの暖温帯にかけて分布し、とくに中国にはすべての種が産する。

[米倉浩司 2019年12月13日]

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改訂新版 世界大百科事典 「ヤナギイチゴ」の意味・わかりやすい解説

ヤナギイチゴ
Debregeasia edulis (Sieb.et Zucc.) Wedd.

東アジアの亜熱帯域に広く分布するイラクサ科の落葉性低木で,生長が速く伐採跡地などに先駆樹種として侵入する。高さ2~3mでよく枝を分かち,樹形はヤナギの若木に似ている。葉もヤナギに似て細長く長さ10~15cm,幅1~3cm。葉裏は白いくも毛におおわれる。雌雄異株で,雌花は球状に集まってつく。雄花の花序はよく枝分れした集散花序。花は4月ころ咲き,5~6月には果実が熟す。果期には合着した雌花の花被が多汁質となり,黄色に色づく。黄色い集合果は外見上キイチゴの実に似ている。ヤナギイチゴの名は葉形と果実のようすにちなんだものである。本州(関東以西),四国,九州から台湾や中国大陸南部の暖地に自生し,とくに海岸近くの暖かい所に多い。果実は甘味があり,食用とされる。また中国では果実酒を作る。茎はヤブマオ属の植物と同様に,繊維をとるのに利用される。漢方では根や葉を止血剤として,また咳止めの薬として利用する。
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