ヨハンセン(読み)よはんせん(英語表記)Wilhelm Ludwig Johannsen

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヨハンセン」の意味・わかりやすい解説

ヨハンセン
よはんせん
Wilhelm Ludwig Johannsen
(1857―1927)

デンマークの植物生理学者、遺伝学者。コペンハーゲン生まれ。父が大学進学を許さなかったので薬剤師となったが、1881年新設されたカールスベルク研究所の助手に採用され、そこで化学、植物学を勉学した。さらに、チューリヒチュービンゲンなどの大学、研究所を訪れ、植物生理学の研究を深め、1903年にはコペンハーゲン農科大学の植物生理学の教授となった。彼は独学の人であるが多才で、さまざまな方面に業績をあげたが、植物の純系内の淘汰(とうた)は無効で、純系内の個体差は遺伝しないとした純系説は、とくに有名である。またその著『精密遺伝学原理』(1909)においてGen(ゲン「遺伝子」、英語のgene)という造語を用いた。

真船和夫

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヨハンセン」の意味・わかりやすい解説

ヨハンセン
Johannsen, Wilhelm Ludvig

[生]1857.2.3. コペンハーゲン
[没]1927.11.11. コペンハーゲン
デンマークの植物学者,遺伝学者。経済的理由で大学で学ぶことなく,薬剤師の徒弟となり,薬剤師の資格を得る。その間,化学,植物学を独学し,テュービンゲン大学の W.プェッファーのもとで植物生理学を修める。デンマークの農業研究所講師 (1893) ,コペンハーゲン大学教授 (1905~25) 。単一の種子から自家受粉によってつくりだした集団は遺伝的に均一であることを証明し,これを純系と呼ぶ (03) 。純系に属する個体はその外観は異なっていても遺伝的な性質は同一であるとして,これを遺伝子型と呼び,それに対して個々の個体の外見的特徴を表現型と呼んで,両者を区別した。遺伝子型は多数の単位より成り立っていると考え,これに遺伝子と名づけた。彼の創始になる,遺伝子,遺伝子型,表現型などの概念は,遺伝の染色体説確立後の遺伝学においても基本的な概念となっている。『精密遺伝学原理』 Elemente der exakten Erblichkeitslehre (09) は,遺伝子概念の確立に大きく寄与した。進化要因として突然変異を考える H.ド・フリースの説を支持した。

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改訂新版 世界大百科事典 「ヨハンセン」の意味・わかりやすい解説

ヨハンセン
Wilhelm Ludwig Johannsen
生没年:1857-1927

デンマークの植物学者。コペンハーゲンの生れ。コペンハーゲン大学卒。カールスベルク研究所,コペンハーゲン大学で研究,教育。はじめ植物の生理,とくに呼吸,開花現象を研究したが,のち遺伝学に関心を示し植物の変異を調査,1903年マメを用いた研究にもとづく純系説の提唱は当時問題になっていた獲得形質遺伝論争に一つのくぎりを与えた。09年に著した《厳密な遺伝研究の基礎Elemente der exakten Erblichkeitslehre》において,Gen(遺伝子),Genotypus(遺伝型),Phänotypus(表現型)などの概念を提唱し,定義づけた。
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百科事典マイペディア 「ヨハンセン」の意味・わかりやすい解説

ヨハンセン

デンマークの遺伝学者。コペンハーゲン大学教授。初め植物の呼吸や開花促進を研究。のち遺伝学に進み,統計学的研究から,純系内の淘汰は無効であるという純系説を提唱し,遺伝型および表現型という概念を定義づけた。著書に《厳密な遺伝研究の基礎》。

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世界大百科事典(旧版)内のヨハンセンの言及

【遺伝子】より

…1900年のメンデルの遺伝法則の再発見以降,多くの生物でこのような対立形質の遺伝様式が盛んに研究されるようになり,それぞれの形質に対応してそれを規定する仮想的な遺伝因子が設定されてきた。このような遺伝因子はメンデル因子,または単に因子とよばれていたが,W.L.ヨハンセン(1909)の提案した遺伝子という語がしだいにこれにとって代わるようになった。 サットンW.S.Sutton(1902)らはいち早く成熟分裂における染色体の行動がメンデル因子の行動と一致することを明らかにしたが,さらに,1910年に始まるT.H.モーガンらのキイロショウジョウバエの研究により,遺伝子は染色体に線状に配列して連鎖群を形成しており,一つの遺伝子は特定の染色体の特定の部位を占めていることがわかった。…

【遺伝子型】より

…生物の形質(表現型)は遺伝的に決定されているが,遺伝的構成と形質は必ずしも一致しない場合があり,遺伝的構成が異なっても同じ形質が現れる場合があり,逆に同じ遺伝的構成でも形質が異なる場合がある。この問題を明快に把握するために,1911年ヨハンセンW.L.Johansen(1857‐1927)は生物の遺伝的構成の総体を遺伝子型という概念で呼ぶことを提唱し,外部に表れた形質の総体としての表現型から区別した。しかし実際上は,特定の形質の発現を支配する1個あるいは数個の対立遺伝子allelomorphの遺伝子座の遺伝的構成についてのみに限定して遺伝子型という語を用いることが多い。…

【獲得形質】より

…ネズミの尾を何代もくりかえし切っても変化がないとも述べている。1903年W.L.ヨハンセンにより純系説が提出されると否定派の方が有力となっていくが,なお実験的に肯定的証拠を提出する研究者がみられた。その中でも有名なのがカンメラーP.Kammererであり,彼によるサンショウウオの色彩・斑紋変化に関する研究である(1913)。…

【純系説】より

…集団の構成が雑多であるときには選抜によって一定の方向に変異をかたよらせることができるが,集団が純系に近づけば,内部には環境による変異のみが存在し,選抜は無効であるという説。W.L.ヨハンセン(1903)がインゲンマメの重量に関する選抜実験を基に提唱した。市販のマメの重さを測定すると連続的な変異を示すが,これをいくつかの階級に分け,その子孫のマメの重さを測ると重い階級の子孫の平均は全体の平均より重く,軽い階級の子孫の平均は軽かった。…

※「ヨハンセン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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