ライラック(英語表記)(common)lilac
Syringa vulgaris L.

デジタル大辞泉 「ライラック」の意味・読み・例文・類語

ライラック(lilac)

モクセイ科の落葉低木。幹は枝分かれしてよく茂り、葉は広卵形。4月ごろ、枝先に香りのある紫色の花を円錐状につける。花が白・赤・青色などの品種もあり、観賞用。バルカン地方の原産で、日本には明治中期に渡来。リラ。むらさきはしどい。 春》「折からの夜宴の花や―/虚子

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精選版 日本国語大辞典 「ライラック」の意味・読み・例文・類語

ライラック

〘名〙 (lilac) モクセイ科の落葉低木、または小高木。ヨーロッパ南部からアフガニスタン原産で、観賞用に栽培される。高さ三~七メートル。葉は長柄をもち対生。葉身は広卵形で基部はやや切れ込み長さ四~七センチメートル。初夏、先の四裂した小さな筒状花が多数円錐状に群がって咲く。花は芳香があり、ふつう紫色だが、青・赤・白色などもある。リラ。和名ムラサキハシドイ。《季・春》
※大英游記(1908)〈杉村楚人冠〉本記「バーナムの黄色き、ライラックの香高き、バターカップの覚束なきなど」

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改訂新版 世界大百科事典 「ライラック」の意味・わかりやすい解説

ライラック
(common)lilac
Syringa vulgaris L.

フランス語ではリラlilasと呼ばれる東ヨーロッパ南部原産のモクセイ科の落葉低木。欧米で花木として重用される。和名はムラサキハシドイという。樹高数m,葉は対生し卵形から広卵形で,長さ5~12cm,長い葉柄がある。花は春,前年の葉腋(ようえき)から生じる円錐花序に新葉の展開とともに数十花をつけ,長さ1cmほどの花筒部の先は4裂した花冠を開く。色は淡紫色であるが,園芸品種は白,青,濃紫,紅色など変化が多い。芳香があり,愛され,15世紀にはフランスで盛んに栽培されていたという。日本には明治中期に渡来し,寒さに強いため関東以北,とくに北海道で多く栽植されている。花からは香油が,また茎は切って中の髄を抜いてパイプにするので,パイプ・ツリーpipe treeの名もある。繁殖株分け,接木,挿木で殖やし,種子によっても可能である。

 ハシドイ属Syringaはユーラシア大陸温帯域を中心に30種ほどが知られ,そのうち10種ほどが観賞用花木として栽植されている。チャボハシドイヒメライラックとも称される)S.microphylla Dielsは中国北部原産で名まえのように小型の,またオニハシドイS.oblalta Lindl.も中国産で小高木になる。どちらも中国や日本で栽植され,欧米にも導入されている。また種間雑種から育成された品種もある。
ハシドイ
執筆者:

ライラックの語源は遠くサンスクリットのnīla(〈暗青色〉の意)に由来し,その独特の花色を表現する。育ちにくい場所でもよく繁茂するので庭などに植えられ,群れのうちの1本でも切り取られれば,残った木は悲しみのあまり翌年には花をつけなくなるという。これを家に持ち込むことは不吉とされ,とくに白い花を病気見舞に持参するのは禁物である。アメリカのニューハンプシャーの州花であり,春先に咲くやさしい色合いの花であることから,花言葉は〈初恋の味〉。また白い花は〈処女・純潔〉のシンボルで,年ごろの娘をもつ家では婚期を逃さぬよう室内にこれを持ち込まないよう注意する。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ライラック」の意味・わかりやすい解説

ライラック
らいらっく
lilac
[学] Syringa vulgaris L.

モクセイ科(APG分類:モクセイ科)の落葉低木または小高木。和名はムラサキハシドイ。ライラックは英名で、フランスではリラとよぶ。ヨーロッパ南東部原産で、ヨーロッパでは広く栽培される。日本へは明治中期に渡来した。高さ3~7メートル、根際(ねぎわ)からひこばえが出る。葉は対生し、広卵形または卵形、長さ5~10センチメートル、両面とも毛はなく、先は急にとがり、縁(へり)に鋸歯(きょし)はない。4~5月、枝先に狭い円錐(えんすい)花序をつけ、芳香のある多数の花を開く。花冠は上部が4裂して平開し、下部は長さ約1センチメートルの細長い筒になる。雄しべは2本で花糸は短く、雌しべは1本。花色は紫色が普通であるが、白、赤、赤紫、青色など多くの品種があり、八重咲きもある。果実は蒴果(さくか)で、長楕円(ちょうだえん)形、長さ約1.5センチメートル、10月に褐色に熟して2裂する。

 陽樹または中庸樹。排水のよい適潤またはやや乾燥する冷涼な所でよく育つが、本州中部以西の暖地では生育があまりよくない。東北、北海道など寒地でよく栽培され、札幌では市の木に指定されている。繁殖はイボタまたはハシドイの実生(みしょう)苗を台木にして接木(つぎき)するか、取木、株分け、実生、挿木による。

[小林義雄 2021年7月16日]

文化史

ライラック属は中国に種類が多い。唐の姚(よう)氏の『西渓叢話(せいけいそうわ)』では、丁香(ちょうこう)の名で情客(じょうかく)に例えられている。宋(そう)の張翊(ちょうよく)は『花経(かけい)』で花に一品から10品まで等級をつけたが、丁香を三品の一つとしてあげた。ヨーロッパでは東部に野生種が分布するが、栽培は16世紀の中ごろ、ド・ブスベックOgier Ghiselin de Busbecq(1522―1592)がトルコより導入したのち、盛んになった。1613年に白花がみいだされ、18世紀後半からフランスで種間雑種がつくられ、改良が進んだ。さらに、20世紀の初頭アメリカ農務省のフランク・メイヤーFrank Nicholas Meyer(1875―1918)が中国に派遣され、野生種を導入し、遅咲きがつくりだされた。北海道には1890年(明治23)にアメリカ人のクララ・スミスSarah Clara Smith(1851―1947)が札幌にもたらして、広がった。

[湯浅浩史 2021年7月16日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ライラック」の意味・わかりやすい解説

ライラック
Syringa vulgaris; lilac

モクセイ科の落葉低木。ムラサキハシドイともいうが,フランス名のリラのほうが通りがよい。バルカン半島からクリミア半島にかけての原産といわれ,寒いところでもよく生育する。日本でも北海道をはじめ各地で庭木としてよく栽植する。幹は根もとから何本にも分枝し,高さ 5mほどになり,樹形はやや平たく丸く茂る。葉は柄があって対生し,長さ4~8cmの広卵形でやや硬く,なめらかで光沢がある。春に,枝の上部に大きな総状の円錐花序を出し,芳香のある紫色の美花を多数つける。花冠は長さ 1cmあまりの漏斗形で4裂し,おしべは2本で花冠の中部ないし上部につく。園芸品種が多く,花色が白,赤,青などのもの,八重咲きのものなどがある。日本に自生する同属の近縁種ハシドイ S. reticulataは,初夏に白色で芳香のある花をつける。

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色名がわかる辞典 「ライラック」の解説

ライラック【lilac】

色名の一つ。JISの色彩規格では「やわらかい」としている。一般に、ライラックの花のような淡い紫色のこと。ライラックはモクセイ科の落葉低木で、5月ごろに香り高い小さな花を咲かせる。花の色は紫、などだが、色名では紫を選択している。ライラックはリラとも呼ばれる。ラベンダーより、わずかに薄い色。

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百科事典マイペディア 「ライラック」の意味・わかりやすい解説

ライラック

リラ,ムラサキハシドイとも。ヨーロッパ原産のモクセイ科の落葉低木〜小高木。高さ3〜6m,よく分枝し,卵形の葉をつける。4〜5月枝先に円錐花序をつけ,芳香のある多数の小花を開く。花冠の先は4裂し,径約1cm。花色は紫,淡紫,白,紫紅色など。八重咲品種もある。寒い地方に適し,イボタノキにつぎ木してふやす。庭木,切花として観賞。

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デジタル大辞泉プラス 「ライラック」の解説

ライラック

JR北海道が運営する特急列車。札幌駅から旭川駅(北海道)を結ぶ。

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