日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ラインハルト(Max Reinhardt)
らいんはると
Max Reinhardt
(1873―1943)
オーストリアの演出家。9月9日ウィーン郊外バーデンに生まれる。初めオットー・ブラームにみいだされて、ベルリンのドイツ座の老役(ふけやく)俳優になったが、無味乾燥な自然主義に飽き足らずに独立し、『どん底』や『サロメ』の演出で新傾向を示した。1905年にブラームからドイツ座を引き継ぎ、回り舞台を駆使したスペクタクル的な『真夏の夜の夢』で不動の地位を獲得した。また、ドイツ座に併設したカンマーシュピーレ(小劇場)では、ウェーデキントやストリンドベリの心理的な近代劇を上演した。舞台は観客に現実とは別のイリュージョンを与えるべきだと考え、抽象的・象徴的な舞台をつくりだし、すべての劇形式、劇空間を貪婪(どんらん)に追求した。サーカスを使って『オイディプス王』を上演したり、教会で中世劇や大規模な黙劇『奇跡』などを試み、欧米各地に巡業して成功を収めた。また『ばらの騎士』以来多くのオペラをも演出、1920年の野外劇『イェーダーマン』に始まるザルツブルク音楽祭を実現させた。第一次世界大戦中すでに表現主義演劇に着目し、ゾルゲの『乞食(こじき)』やゲーリングの『海戦』をいち早く上演している。戦後はピランデッロを発見したり、バーナード・ショー作品の新演出を行ったが、ドイツ座25周年の祝賀の際に「俳優に告ぐ」という演説を残し、ナチス前夜にベルリンを去り、さらにアメリカ亡命を余儀なくされた。アメリカでは映画の仕事にも手を染めたが困難が多く、晩年は不遇で、43年10月31日ニューヨークに没した。理論的著作は少ないが、克明な演出台本が残されている。
[岩淵達治]