ラッセル(Ken Russell)(読み)らっせる(英語表記)Ken Russell

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ラッセル(Ken Russell)
らっせる
Ken Russell
(1927―2011)

イギリスの映画監督。サウサンプトン生まれ。本名はヘンリー・ケネス・アルフレッド・ラッセルHenry Kenneth Alfred Russell。1944年パングブーン海上大学卒業後、軍隊に所属。除隊後短い期間ダンサー、ついで俳優となる。その後写真家として雑誌で働いたのち、BBCでドキュメンタリー製作に携わり、作曲家ディーリアスの晩年を描いた『ケン・ラッセル/ソング・オブ・サマー』(1968)など芸術家の伝記テレビ映画で注目され、同時に自主映画を撮りはじめる。劇場映画では、「ジャック・タチ風映画」という注文のもとに作られた処女作『フレンチ・ドレッシング』(1963)、ジェームズ・ボンドのテレビ版ハリー・パーマー・シリーズを劇場映画化した『10億ドルの頭脳』(1967)を製作したのち、D・H・ローレンス小説を映画化した第三作『恋する女たち』(1969)で国際的評価を得る。やがて劇場映画においても芸術家の伝記が創作の柱となり、芸術家の全面的賛美ではなく、人間性と創作との関係を照らし出そうとするラッセルの作品の批評的視点によって、その後の伝記映画の流れは決定的に変えられることになった。また物語の展開に故意に欠落部分をつくったり、過去と現在あるいは事実と幻想を自在に交錯させることによって、因習的なストーリーテリングから映画を解放しようとする点もまた、ラッセル作品のもう一つの重要な特徴であった。チャイコフスキー(『恋人たちの曲 悲愴(ひそう)』(1970))、マーラー(『マーラー』(1974))、ルドルフ・バレンチノ(『バレンチノ』(1977))、シェリー(『ゴシック』(1986))、オスカー・ワイルド(『サロメ』(1988))など芸術家の生涯が、いずれも史実と幻想のきわめてあいまいな境界のなかに描かれている。超能力者として知られる実在の人物の一生を、予言される未来まで含めて描いた『超能力者 ユリ・ゲラー』(1996)にも同じ特徴が顕著にみられる。伝記映画以外では、『レインボウ』(1989)、『チャタレイ夫人の恋人』(テレビ版1993、劇場版1995)とローレンスの小説を繰り返し取り上げ、『アルタード・ステーツ 未知への挑戦』(1980)、『白蛇伝説』(1988)などのSF映画、また1920年代のイギリス・オペレッタと1930年代ハリウッドへのオマージュボーイフレンド』(1971)、フーの音楽による映画史上はじめてのロック・オペラ『Tommy トミー』(1975)などのミュージカルも手がけた。

[芳野まい]

資料 監督作品一覧

フレンチ・ドレッシング French Dressing(1963)
10億ドルの頭脳 Billion Dollar Brain(1967)
恋する女たち Women in Love(1969)
恋人たちの曲 悲愴 The Music Lovers(1970)
肉体の悪魔 The Devils(1971)
ボーイフレンド The Boy Friend(1971)
狂えるメサイア Savage Messiah(1972)
マーラー Mahler(1974)
Tommy トミー Tommy(1975)
リストマニア Lisztomania(1975)
バレンチノ Valentino(1977)
アルタード・ステーツ 未知への挑戦 Altered States(1979)
アルタード・ステーツ 未知への挑戦 (1980)
クライム・オブ・パッション Crimes of Passion(1984)
ゴシック Gothic(1986)
アリア Aria(1987)
サロメ Salome's Last Dance(1988)
白蛇伝説 The Lair of the white worm(1988)
レインボウ The Rainbow(1989)
ボンデージ Whore(1991)
逆転無罪 Prisoners of Honour(1991)
チャタレイ夫人の恋人 Lady Chatterley(1993)
超能力者 ユリ・ゲラー Mindbender(1996)
カーシュ夫人の欲望 The Insatiable Mrs. Kirsh(2002)
デス・ルーム Trapped Ashes - The Girl With Golden Breasts(2006)

『Ken HankeKen Russell's Films(1984, Scarecrow Press, Metuchen)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android