ラディカルエコノミックス(英語表記)radical economics

改訂新版 世界大百科事典 の解説

ラディカル・エコノミックス
radical economics

1960年代のアメリカでは,ベトナム反戦運動黒人解放運動フェミニズム等々,さまざまな社会運動が噴出した。こうした状況下,大学制度の内部にいる職業的な経済学者や大学院生に対しても,研究の方法論や研究課題の選択に関して新しい方向づけを迫った。それまでのアメリカの経済理論や実証研究の主題は,ケインズの理論をも包含する新古典派総合と呼ばれるものであったが,これは先験的に平等とされる諸個人や企業の集合体として経済をとらえる傾向をもっているため,人種差別などにみられる現実の経済社会における階層構造にまで立ち入って分析を行い,改めるべき点があれば変革のプログラムを提出するだけの内在的契機を欠く面がある。

 こうした状況に対応して,新古典派経済学者の一部にラディカル・エコノミストradical economistを自称する人々が現れた。彼らは,階級社会の経済分析に道を開いている海外のマルクス経済学や,アメリカの少数派としてT.ベブレン以来の伝統をもつ制度学派などの方法をも参考にする新しい経済理論の枠組み,すなわちラディカル・エコノミックスを模索し,同時にそのような問題意識から発するさまざまな実証研究を開始した。組織的には1968年にミシガン大学を拠点として〈ラディカル政治経済学のための連合Union of Radical Political Economy〉が結成され,独自の機関誌やニューズ・レターを刊行する一方既存の経済学専門誌にも活発に投稿を行い,アメリカ政治の非民主化傾向に批判的な大学院生などに,一定の影響を及ぼしてきている。

 この学派に属する代表的な経済学者としては,《アメリカ階級構造におけるIQ》などの論文で知られるボールズSamuel Bowles(1939- )やギンタスHerbert Gintis(1940- )などがいる。一時期に比べてラディカル・エコノミストは最近は華々しい動きはないが,地味な研究は今日も続いている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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