ラマ教音楽(読み)ラマきょうおんがく

改訂新版 世界大百科事典 「ラマ教音楽」の意味・わかりやすい解説

ラマ教音楽 (ラマきょうおんがく)

チベット大乗仏教すなわちラマ教における音楽は,宗教儀礼の音楽が基本であり,広義には儀礼後などに行われる各種の仮面舞踊などに付随する伴奏音楽も含む場合がある。儀礼音楽は,ラマ僧による読経賛歌ユニゾンでの単旋律の朗唱と器楽伴奏によって奏される。パドマサンババ開祖とするニンマ派,あるいはカダム派,サキャ派,カギュ派など古派の儀礼音楽と,ツォンカパ以来のゲルク派の儀礼音楽とは大きな変化はない。ラマ教の分布するチベット高原,ブータンシッキム,ネパールなどの地域的変化はわずかだが,インド北部のラダック各地の儀礼音楽は若干の変化がみられる。

 ラマ教の儀礼音楽が奏される機会はきわめて多く,チベット太陰暦に基づく宗教的祭日を中心に,毎月の行事,各派や各地域によって異なる祭日などの機会に奏されるが,その数は年間に70~80回にもなる。太陰暦の一日(新月)と十五日(満月)にはとりわけ盛大であり,釈迦命日とされる第四月の満月をはじめ成道や涅槃,入胎などの祭り,開祖パドマサンババの誕生を祝う第五月の十日,ツォンカパの命日とされる第十月の二十五日などは楽器の編成も大きくなりきわめて盛大に執り行われる。さらに毎日の儀礼--朝と夕の勤行--にも奏される場合も多く,いわば年中ラマ教の儀礼音楽を聴くことができるといっても過言ではない。年間の最大行事である新年祭,ツォンカパの命日などの大祭では,ラマ僧による儀礼的な色彩豊かな仮面舞踊が,勤行の始めや終りに演じられる。さらに,渡り芸人たちのジャータカ(釈迦本生譚)などを素材とするシュドンなどの説話劇が加わる場合もある。ラダックでは,宗教的祭日には,モンと呼ぶアウトカーストの専業音楽家集団が儀礼前から門前などで音楽を奏する。

 ラマ教儀礼音楽に使用される楽器は,気鳴楽器では全長3mほどのドゥンチェンduṅ-chen,ラグドゥンrag-duṅあるいはジャンドゥンjan-duṅと呼ぶ縦笛,オーボエ系のギャーリンgyaling,rgya-glin,キャーリンrkan-glinあるいはサンカーンsan-kang,ほら貝のドゥンduṅあるいはドゥンカルduṅ-dkar,膜鳴楽器では2個一対の両面太大鼓ナチインrna-chin,ラー(ル)ナlag-rnaあるいはナヨックnayok,振鼓ダーマルḍamaru,体鳴楽器ではドラのカールナḥkhar-rṅa,シンバルのシルニエンsil-sñan,導師などが使用する鈴のディルブdril-buなどである。
仏教音楽
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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