リウマチ性多発筋痛症と側頭動脈炎

内科学 第10版 の解説

リウマチ性多発筋痛症と側頭動脈炎(関節リウマチおよび類縁疾患)

定義・概念
1)リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica:PMR)
50歳以上の高齢者に好発する原因不明の炎症性疼痛性疾患である.肢帯筋のこわばりと激しい痛みを主徴とし,関節の腫脹や疼痛はあっても軽度である.赤沈やCRPなどの炎症反応が著しく亢進するが,リウマトイド因子抗核抗体は原則として陰性である.特異的な臨床検査所見に乏しく,関節リウマチや多発性筋炎などの膠原病,感染症,悪性腫瘍との鑑別を要する.少量のステロイドホルモンが著効するのが特徴である.
2)側頭動脈炎(temporal arteritis:TA)
リウマチ性多発筋痛症と同様,50歳以上の高齢者にみられる.大動脈およびその分枝を侵す動脈炎であり,頭蓋外の動脈(特に浅側頭動脈)を好発部位とする.動脈壁中膜においてリンパ球浸潤と多核巨細胞を伴った肉芽腫性炎症(巨細胞性動脈炎 giant cell arteritis)が認められる.頭痛や側頭動脈部の肥厚・圧痛を特徴とし,病変が頭蓋内に及ぶと視力障害や失明をきたす.
分類
 側頭動脈炎は高安動脈炎とともに大型の血管炎症候群に分類される.側頭動脈炎の約半数において初発症状もしくは経過中にリウマチ性多発筋痛症を発症する.またリウマチ性多発筋痛症の患者では組織学的に巨細胞性動脈炎を証明できることがあり,好発年齢も共通であることから両者は一連の疾患であると考えられている.
原因・病因
 リウマチ性多発筋痛症と側頭動脈炎ともにHLA-DRB1の遺伝子多型との相関が報告されており,遺伝的素因が発症に関係する.環境因子としてウイルスや細菌感染,あるいはインフルエンザワクチン接種(Sorianoら,2012)との関連が示唆されているが確定的な証拠はない.感染やワクチン接種を契機に活性化された単核球から産生されるインターロイキン-1β(IL-1β)やインターロイキン6(IL-6)などの炎症性サイトカインが病態形成に関与するとの考えもある.
疫学
 リウマチ性多発筋痛症は欧米の白人に頻度の高い疾患であり,北欧における調査では50歳以上の高齢者10万人あたりの年間発生率は約50人と報告されている.有色人種にはまれであるとされているが,疾患に対する認識が高まるにつれてわが国でも報告例は増えている.50歳以下の発症はまれで,初発時の平均年齢は70歳,男女比は1:2で女性に多い.やはり北欧における調査で,側頭動脈炎の発症率は50歳以上の高齢者10万人に対して年間20~30人であり,女性にやや多い.リウマチ性多発筋痛症で組織学的に巨細胞動脈炎が証明される頻度は10~20%と報告されている.一方,側頭動脈炎にリウマチ性多発筋痛症を合併する頻度は30~50%と報告されている.
病理・病態生理
 側頭動脈炎では血管壁に巨細胞を伴うリンパ球やマクロファージなどの炎症細胞の浸潤を認める.血管内腔は狭小化し,血栓形成も認められる.炎症部位にはインターフェロン-γ(IFN-γ)やIL-1βの発現亢進が認められる.リウマチ性多発筋痛症に特異的な病理所見は明らかにされていない.
臨床症状
1)リウマチ性多発筋痛症:
 a)自覚症状:頸部から肩・上腕,殿部から大腿部にかけてのこわばりと疼痛を訴える.症状は潜行性に進むこともあるが,比較的短期間に完成するのが一般的で,ときに急激な経過で発症する場合もある.起床時のこわばりと疼痛が強く,ベッドから起き上がれない,髪をまとめるなどの動作ができないなどと訴える.発熱,倦怠感,食欲不振,体重減少などの全身症状も伴う.
 b)他覚症状:自覚症状が強いわりに他覚的所見に乏しい.筋の圧痛は認めるが萎縮を認めることは少ない.激しい痛みのために動作は障害されるが,痛みの関与を取り除けば脱力は原則として認められない.関節リウマチにみられるような末梢関節の対称性・持続性の腫脹を認めることもまれである.
2)側頭動脈炎:
 a)自覚症状:頭痛,特に側頭動脈領域に添った痛み,視力障害,顎跛行(咀嚼時にみられる顎の疲労)などを訴える.発熱,全身倦怠感,体重減少などの全身症状を伴い,リウマチ性多発筋痛症が前駆する場合もある.
 b)他覚症状:典型例では側頭動脈が紅斑状に肥厚または結節を触れ(図10-2-10),圧痛を認める.眼動脈に病変が進展すれば視力低下や失明をきたす.失明は側頭動脈炎の15%に発症するとされ,一過性の黒内障が前駆する場合もある.眼科的検索で虚血性視神経障害や視神経萎縮を認める.大動脈およびその分枝に病変が及べば,頸動脈の血管雑音や上肢血圧の左右差が認められる.
検査成績
 リウマチ性多発筋痛症,側頭動脈炎ともに赤沈の亢進やCRPの著増など非特異的な炎症所見を認める.赤沈はしばしば100 mm/時をこえる.抗核抗体,リウマトイド因子,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrop­hil cytoplasmic antibody:ANCA)などは陰性である.炎症性疾患に伴う二次性貧血を認める.血清クレアチンキナーゼ(CPK)やアルドラーゼなどの筋原性酵素の上昇は認めず,筋電図・筋生検も正常である.関節X線検査にて骨の破壊像は認められない.
診断
1)リウマチ性多発筋痛症:
表10-2-6にBirdらによる診断基準を示す.高齢者に近位筋疼痛の訴えを認めたらこの疾患を思い浮かべることが診断の第一歩である.特異的臨床検査所見に乏しいため,ほかのリウマチ性疾患や感染症,悪性腫瘍などを除外することが大事である.
2)側頭動脈炎:
表10-2-7に側頭動脈炎の分類基準を示す.高齢者に新たに発症した頭痛を認めたときに鑑別診断の1つとして想起する.確定診断には側頭動脈生検を行う(図10-2-11).病変が分節上であるため,局所所見が不明確な場合は3~6 cmの長さで切除し,連続切片で詳細に解析する必要がある.近年画像診断技術の進歩により,側頭動脈炎を含む大型血管炎症候群の診断に,MRIや超音波検査が有用であることが明らかにされている(Bley,2008).
合併症
 側頭動脈炎で最も注意すべき合併症は失明である.約15%に出現するとされている.眼動脈もしくは後毛様体動脈の障害による網膜虚血が原因である.頭蓋外の血管病変として大動脈瘤や大動脈解離を認めることがある.
治療・予後
1)リウマチ性多発筋痛症:
側頭動脈炎の合併がなければ少量の副腎皮質ホルモンで治療を開始する.プレドニゾロンで10~20 mg/日程度である.投与開始後数日で筋症状が改善するのが特徴である.48時間以内に症状の改善がみられない場合は,他疾患の可能性も考えなければならない.有効であれば炎症反応の推移をみながら慎重に減量する.減量に伴い再発する症例があり,この場合5~7.5 mg/日程度の維持量の投与を必要とする.2年間までの投与で約3/4がステロイドを離脱できたという.対象が高齢者であることより,骨粗鬆症,白内障,消化性潰瘍,糖尿病,感染症など,少量といえどもステロイドの副作用に充分注意する.
2)側頭動脈炎:
プレドニゾロンで40~60 mg/日を投与する.複視や視力低下などの眼症状の出現は内科的エマージェンシーと考え,ステロイドパルス療法も考慮する.1カ月投与して炎症反応が改善しているようなら漸減する.再燃によりステロイドが減量困難な場合には免疫抑制薬の併用を検討する.[野島美久・廣村桂樹]
■文献
Bley TA, Reinhard M, et al: Comparison of duplex sonography and high-resolution magnetic resonance imaging in the diagnosis of giant cell (temporal) arteritis. Arthritis Rheum, 58: 2574-2578, 2008.
Soriano A, Landorfi R, et al: Polymyalgia rheumatica in 2011. Best Practice & Research Clinical Rheumatology, 26: 91-104, 2012.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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