ルーシヨン(英語表記)Roussillon

改訂新版 世界大百科事典 「ルーシヨン」の意味・わかりやすい解説

ルーシヨン
Roussillon

フランス南部,スペインと国境を接する旧州名または地方名。現在のピレネー・ゾリアンタル県にほぼ一致する。中心都市はペルピニャンピレネー山脈東端にあり,カニグー,カルリットの山地やテット川,テッシュ川の谷を含む一方,地中海に面し,北をコルビエール山地で画されたルーシヨン平野からなる。とくにこの平野部分を指してルーシヨンと呼ばれることが多い。フランス・カタルニャ地方の中心。きわめて温暖な気候に恵まれ(ペルピニャンの1月,7月の平均気温はそれぞれ7.5℃,23.8℃),氷点下に下がることはきわめて少ない。

 ルーシヨンは景観的に三つの類型に分けられる。第1はアスプルと呼ばれ,スペインとの国境をなすアルベール山地のふもと,ベルメイユ海岸やアグレイなどの乾燥した丘陵台地などの地域で,果樹園,ブドウ園の景観をなしている。この地方のブドウ酒はこくのある上質のものとして知られる。第2はルガティと呼ばれる灌漑地域で促成栽培野菜,果実の産地で,今日では1万5100haに及ぶ。生鮮野菜の長距離輸送が可能となり,急激に発達した。当地の果実は桃(バ・コンフラン地方),桜桃(セレ地方),リンゴ,梨(バルスピール地方)などが生産される。第3はサランクと呼ばれる砂地や潟の分布する海岸の沖積平野で,ブドウ栽培地であるとともに,今日では観光地として大いに発達している地域である。石灰岩からなるルーカート岬の南から40kmにわたる砂質海岸およびその南のベルメイユ岩石海岸は1960年代半ば以降,ラングドックとともに国を挙げて観光開発に努力が注がれているところである。北ではルーカート港,バルカレス港の建設を中心に750haにわたってレジャー用施設が整備される。ペルピニャン周辺の海岸は早くから開けたところであるが,サン・シプリヤンでは新しいレジャー港と高層宿泊施設が建設され,アルジェレス海岸ではヨーロッパ・キャンピングセンターに毎夏20万~30万人が訪れる。ベルメイユ海岸では,ドランマティスなどの画家を引きつけたコリウールCollioureは中世の商港として栄え,砂浜と要塞式の城をもつ美しい入江である。その南バンドル港Port-Vendresは17世紀末B.Le P.ボーバンにより軍港,要塞とされ発展した。ここはレジャー港であるとともに漁港としてルーシヨン中最も活気があり,イワシカタクチイワシなどの水揚(3000t,1978)がある。その南バニュルス・シュル・メールはフランス最南端の海水浴場であるが,魚が多く,パリ大学の実験場や海洋生物の研究所,水族館がある。

 この地方は,ローマ時代にはガリア・ナルボネンシスの一部であったが,その後西ゴート人やアラブ人の侵入を受け,11世紀にはアラゴン領となり,1659年のピレネー条約で最終的にフランス領となった。その名はローマ時代の主都ルスキノRuscinoに由来する。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ルーシヨン」の意味・わかりやすい解説

ルーシヨン
Roussillon

フランス南部の地方。旧州名。ルションとも表記される。ピレネーゾリアンタル県の大部分に該当する。中心都市はペルピニャン。前2世紀ローマ,462年西ゴートに征服され,720年イスラム教徒に一時支配されたが,750年代カロリング朝フランク王国領となり,中世にはバルセロナ伯領,次いでマジョルカ王国の一部をなし,その帰属をめぐってフランス,スペイン両国がしばしば争った。 1659年ピレネー条約により最終的にフランス領となった。ブドウ,野菜を栽培,ワイン産出地。

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世界大百科事典(旧版)内のルーシヨンの言及

【カタルニャ】より

… ところが,1620年代にカスティリャのオリバレス伯公爵が画一的に半島を統治する政策を打ち出したため,カタルニャでは暴動が勃発した(1640)。このとき,フランスはカタルニャを支援し,オリバレス伯公爵の政策は失敗に帰したが,カスティリャとフランス王国の間で結ばれたピレネー条約(1659)により,ルーシヨン(ピレネー山脈の東端にあったカタルニャ領土)はフランスに奪い取られてしまった。外国の介入を招いたスペイン人同士の戦いは,続く18世紀初頭のスペイン継承戦争においても展開された。…

※「ルーシヨン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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