一円保(読み)いちえんほ

日本歴史地名大系 「一円保」の解説

一円保
いちえんほ

古代の多度たど仲村なかむら郷・弘田ひろた郷・吉原よしはら(和名抄)にまたがる保。善通寺曼荼羅まんだら寺領。善通寺を含む善通寺市の中心部と、吉原よしわら町の曼荼羅寺周辺の地域にあたる。善通寺領は那珂なか多度両郡に散在し、曼荼羅寺領は吉原郷内に公領に交じって存在しており、ともに国司によって免田とされていたが、保延四年(一一三八)讃岐国守藤原経高は散在寺領をそれぞれ両寺の周辺に集中一円化した(長寛二年七月二〇日「善通曼荼羅両寺所司等解」東寺文書)。久寿三年(一一五六)五月二一日に善通・曼荼羅両寺所司が讃岐国留守所に提出した解状(東寺百合文書)によると、両寺の仏寺事料物は一円化以前は夏秋に検注した地子物を充ててきたが、一円化ののちは「起請田官物之内」をもって充てるようになったとある。これから判断すると、一円化寺領は実質的には公領であって、国衙が寺領と定めた地域から徴収した官物の一部を、仏寺事料物として両寺に納入するものであったと思われる。この寺領がのちに保とよばれるのもこうした理由からではなかろうか。

久安元年(一一四五)一二月の善通曼荼羅両寺々領注進状(宮内庁書陵部所蔵文書)によって一円寺領の状態をみると、仲村郷田代二〇町三段六〇歩(見作九町九段余)・畠三八町七段一二〇歩(作麦一九町一段余)弘田郷田代六町七段(見作四町余)・畠五町三段半(作麦二町一段)吉原郷田代三段一二〇歩(見作)・畠二四町一段大(作麦六町七段)であり、合計田代二七町三段一八〇歩・畠六八町二段二六〇歩になる。

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

百科事典マイペディア 「一円保」の意味・わかりやすい解説

一円保【いちえんほ】

讃岐国多度(たど)郡にあった善通寺・曼陀羅寺領。現香川県善通寺市の善通寺周辺と曼陀羅寺周辺にあたる。両寺はともに空海と深いかかわりをもつため,10世紀後半には京都東(とう)寺末寺となり,東寺から別当が派遣されて両寺の寺務・寺領を管領していた。寺領は多度郡那珂(なか)郡に免田として散在していたが,1138年讃岐国守がそれぞれの寺地周辺に集中一円化,田畠合計は95町余であった。しかしこの一円化寺領は実質的には公領で,散在化・一円化を繰返したり,国司押領が度重なるなど不安定な状態であった。これを克服するため,1229年本寺の東寺門跡本所として成立したのが一円保である。その後,本寺が京都山科随心(やましなずいしん)院―大覚寺随心院と移るにともなって一円保の本所も替わり,室町期には善通寺誕生院院主が年貢を請け負うようになる。守護代香川氏など武家侵略戦乱による荒廃が続いたが,随心院への年貢運上は1500年まで行われている。

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