一遺伝子一酵素説(読み)いちいでんしいちこうそせつ(英語表記)one gene-one enzyme theory

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「一遺伝子一酵素説」の意味・わかりやすい解説

一遺伝子一酵素説
いちいでんしいちこうそせつ
one gene-one enzyme theory

一つ酵素は一つの遺伝子支配下にあるという仮説。 1945年にアメリカビードルテータムが,アカパンカビの突然変異種を研究中,アルギニン合成経路のそれぞれ反応を触媒する酵素が欠如していることから推論した。これに対し,遺伝子が合成するのは必ずしも酵素とは限らないとして,一遺伝子一ペプチド鎖説を称える者もある。

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世界大百科事典(旧版)内の一遺伝子一酵素説の言及

【遺伝子】より

…この時期より古い著書・論文では〈遺伝単位〉〈遺伝因子〉〈因子〉〈ゲン〉〈ジーン〉が用いられており,〈遺伝子〉は見あたらない。
[一遺伝子一酵素説]
 1940年代に入り,ビードルG.W.BeadleとテータムE.L.Tatum(1941)らはアカパンカビの栄養要求性の遺伝を研究し,生体内における物質の生合成経路の各段階がそれぞれ固有の遺伝子に支配されていることを知った。すでに,生化学的研究により生合成経路の個々の過程が酵素に触媒されていることがわかっていたので,ビードルはこれらの知見を総合して一遺伝子一酵素説を立てた。…

【栄養要求】より

…生物が個体と種の維持のために必要な物質を外界から摂取しなければならないこと。緑色植物は光のエネルギーを利用して必要なすべての有機物質を合成する能力があるので,二酸化炭素とN,K,Pなどを含む無機塩類が与えられればよいが,多くの微生物や動物は生命活動のエネルギーと体構成物質の材料を得るために種々の有機化合物や無機塩類を要求する。ある生物がどのような栄養物質を要求するかは,その生物の物質利用能力と合成能力によってきまる。…

【先天性代謝異常】より

…しかし,この新概念は1940年代まで注目されなかった。40年代にC.ビードル一派によるアカパンカビの突然変異株の実験により,生体内の化学反応と遺伝子が1対1に対応するという〈一遺伝子・一酵素説〉が証明され,50年代以降にアミノ酸代謝異常症を中心として多くの新しい先天性代謝異常症が発見されるようになった。これらの先天性代謝異常の発見は検査法の進歩と密接な関係がある。…

【分子生物学】より

…M.デルブリュックを総帥とする,アメリカのファージ(細菌ウイルス)・グループの一員であるハーシーA.D.Hersheyが,ファージ感染・増殖の本体がDNAであることを1952年に示したころから,実質的な分子生物学的研究が盛んに行われるようになった。デルブリュック,ルリアS.E.Luriaに代表される細菌やファージの自己増殖を研究する分子遺伝学グループ,一遺伝子一酵素説を提唱したビードルG.W.Beadle,テータムE.L.Tatumによる代謝の制御を研究する遺伝生化学的研究の開始,そしてイギリスのケンブリッジにおける,ブラッグW.L.Bragg,ペルーツM.F.Perutz,ケンドルーJ.C.Kendrewなどの学派によるX線結晶解析によるタンパク質分子の構造解析が,当時の分子生物学のすべてといってよい。これら,遺伝的,生化学的,物理学的な3学派の方法が統合される形で,1953年にJ.ワトソンとF.クリックによって,DNAの相補的二重鎖構造が解明された。…

※「一遺伝子一酵素説」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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