三二年テーゼ(読み)さんじゅうにねんてーぜ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「三二年テーゼ」の意味・わかりやすい解説

三二年テーゼ
さんじゅうにねんてーぜ

1932年(昭和7)に決定されたコミンテルン日本に関する方針書。正式表題は「日本の情勢日本共産党任務に関する方針書(テーゼ)」。このテーゼ発表以前に日本共産党は、二七年テーゼの戦略的転換である「三一年テーゼ草案」を発表していた。これに対し、日本帝国主義の満州(中国東北)侵略に示された日本の支配勢力の実態から、コミンテルンで再検討が進められ、32年3月コミンテルン執行委員会常任委員会でのクーシネン報告は、同草案を激しく批判し、5月にコミンテルン執行委員会西欧書記局の名前で新テーゼが発表された。その主要な内容は、日本帝国主義の満州侵略に注意し、侵略を主導する日本の支配的制度が、絶対主義的天皇制、半封建的地主制独占資本主義にあるとし、とくに天皇制の相対的独自性を強調、日本革命は、天皇制を打倒し地主制を廃止するブルジョア民主主義革命から社会主義革命に強行的に転化する、とするものであった。これによって三一年テーゼ草案は廃止され、労農派との思想的区別が明確になった。刊行中の『日本資本主義発達史講座』はこのテーゼの内容と基本的に一致し、テーゼの正しさを実証するものとなった。テーゼは日本の国家権力に科学的規定を与えた画期的なものであったが、当時のコミンテルンの方針を反映して、社会ファシズム論セクト主義や、革命情勢近しとする主観主義的判断があったと今日、日本共産党によって自己批判されている点も含まれていた。

犬丸義一

『日本共産党中央委員会出版局編・刊『日本共産党の六十年』(1982)』

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