三彩(読み)サンサイ(英語表記)sān cǎi

デジタル大辞泉 「三彩」の意味・読み・例文・類語

さん‐さい【三彩】

低火度溶融の色釉いろぐすりを施した陶器。3色とは限らず、2色・4色のものも多い。中国唐代の唐三彩技法的に熟成日本にも奈良三彩があるほかペルシアエジプトなどでも作られた。

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精選版 日本国語大辞典 「三彩」の意味・読み・例文・類語

さん‐さい【三彩】

〘名〙 二色以上の色釉(いろぐすり)で上絵付けし低火度で焼成した陶器。緑・白・褐、または褐・緑・藍の唐(とう)三彩、主として赤・黄・緑を用いた明(みん)三彩、黒・白の地に緑・黄・紫を用いた素(そ)三彩などがある。なかでも唐三彩が有名で、日本でもこれをまねて作った奈良三彩がある。

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改訂新版 世界大百科事典 「三彩」の意味・わかりやすい解説

三彩 (さんさい)
sān cǎi

陶器の加飾法の一つで,その加飾された陶器をも指す。三彩は三色で彩られることを意味するが,陶磁用語としては釉色の数にはかかわらず,一つの器に2種類以上の色釉がほどこされたはなやかな陶器をさす。この色釉は鉛を溶媒剤に使った鉛釉を基礎釉とし,他の釉の掛け合わせは原則として三彩とは呼ばない。白地透明釉,藍釉,緑釉褐釉などが代表的な色釉である。

 三彩は東洋陶磁独特の焼物であり,はじめ中国の後漢時代に華北ではじめられた。この時期の三彩はあまり流行することなく消滅し,六朝後期の北斉時代(6世紀後半)になって再び華北で鉛釉が流布しはじめる過程で再登場してきた。北斉の三彩は白釉緑彩の形で示される。白い胎土に透明釉をかけて白釉をつくり,この白素地に緑釉をたらし込んで三彩をつくる。この技法の延長上に唐時代の三彩が精製されたのである。初唐時代の7世紀中葉に資料があり,盛唐則天武后の治世に一挙に習熟した。680-690年代である。この盛唐三彩は盛唐ならではの典雅な器形のうえに,透明釉のぼかしの効果を存分に生かして豊麗な装飾を具現したのであり,陶磁界にはじめて華麗な加飾が可能になった。その後,中・晩唐時代には作行は低下するが,実用の器物として三彩は生き残り,海外にも輸出された。その後,宋,遼,金,元,明,清と三彩は受け継がれていくが,三彩釉で絵文様をあらわすため,文様の界線を盛り土した法花は明後期の特色ある三彩であり,明の嘉靖にはじまる素三彩は磁胎に三彩釉を染め分けた異色のものである。

 盛唐三彩のはなやかな器物は,他国人をおおいに刺激し,渤海国新羅国,日本国に三彩がつくられる手本となった。とくに日本の三彩は奈良三彩と呼ばれ,かなり忠実に盛唐三彩の施釉法を見よう見まねで倣っている。つづいて晩唐三彩を模倣したのはイスラム圏である。9世紀にはメソポタミア,ペルシアの地方に三彩窯がおこり,いわゆるペルシア陶器の製作が勃興する機縁の一つをなした。ペルシア三彩は白化粧地に奔放な賦彩と線描による文様表現を組み合わせて,器形は中国様式にしたがいながらも,自在な独自の境地をつくりあげた。
宋三彩 →唐三彩 →遼三彩
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「三彩」の意味・わかりやすい解説

三彩
さんさい

陶器に2種以上の色釉(いろゆう)を染め分けた加飾陶器の称。この色釉には低火度で焼ける鉛釉が使われる例が多く、習慣上、高火度釉を一器に数種かけ合わせても三彩とはよばない。鉄呈色で褐釉、銅呈色で緑釉、コバルト呈色で藍(らん)釉、そして呈色剤のない透明釉が三彩陶の基本の釉(うわぐすり)である。

 中国では早くも前漢時代(前202~後8)に始源的な三彩が試みられ、六朝(りくちょう)時代末期の6世紀後半には、白色の胎土に透明釉をかけ、緑釉を垂らし込む唐三彩の技術母胎が完成し、唐朝に入った690年ごろから貴族趣味に合致した豊麗な唐三彩が熟成した。以後三彩は終始焼造され、宋(そう)三彩、遼(りょう)三彩、元(げん)三彩、明(みん)三彩、法花(ファーホワ)(ソーダ水を含む半強化釉を用いた特殊な三彩)などが系譜を連ね、明後期には磁胎に三彩釉を施す素(そ)三彩が流行した。また中国以外でも、この中国の技法を受けて、渤海(ぼっかい)三彩(渤海国)、新羅(しらぎ)三彩(朝鮮半島)、奈良三彩(日本)、ペルシア三彩(西アジア諸国)などが8~9世紀につくられた。

[矢部良明]

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百科事典マイペディア 「三彩」の意味・わかりやすい解説

三彩【さんさい】

緑,褐,白などの鉛(ゆう)を施し,低火度で焼成した軟陶。灰を溶剤とした高火度のものもある。色数が2色もしくは4色でも一般に三彩と呼ぶ。中国の唐三彩が名高く,渤海,遼,宋,元,明の三彩,さらに清の素三彩,交趾(こうち)焼がある。日本では正倉院に多く伝わる,唐の影響を受けた奈良三彩が有名。
→関連項目【けい】州窯

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「三彩」の意味・わかりやすい解説

三彩
さんさい

陶磁用語。上絵付けに鉛の白,銅の緑,鉄の黄の3色の釉 (うわぐすり) を用いた低火度の焼物。このほかコバルト釉の藍色のものもある。中国,唐~明代に作られ,日本でも奈良~平安時代初期に作られていたが,唐三彩が最も有名。渤海や日本の正倉院に伝わる壺,鉢,皿などの三彩は唐三彩を模したものであるが釉調,作風,胎土などは唐三彩に及ばない (→奈良三彩 ) 。また平城宮,平安宮などから瓦,鉢などの三彩が出土し,古窯址も発見されて,日本でも三彩を生産したことが実証された。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「三彩」の解説

三彩(さんさい)

緑,褐,白の3色で彩色し,低火度で焼きあげた中国の陶器。唐以後東アジアに広がったが,唐三彩が最も名高く,人物,動物,器物など多く明器(めいき)(葬具)に用いられ,華やかな貴族社会をしのばせる。

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旺文社世界史事典 三訂版 「三彩」の解説

三彩
さんさい

唐三彩

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世界大百科事典(旧版)内の三彩の言及

【新羅三彩】より

…朝鮮,統一新羅時代につくられた,三彩釉を施された陶器。遺品は数少なく,大韓民国国立中央博物館所蔵の有蓋高杯は,蓋受けの立上がりのある浅い杯部に,低い鈍重な感じを与える脚部がついた,統一新羅時代に通有の器形を示す。…

※「三彩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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