三菱樹脂事件(読み)みつびしじゅしじけん

改訂新版 世界大百科事典 「三菱樹脂事件」の意味・わかりやすい解説

三菱樹脂事件 (みつびしじゅしじけん)

私企業が試用期間にある労働者の思想信条を理由として本採用を拒否したところから起こった裁判事件で,私人相互間における憲法上の人権保障の効力,労働者の思想・信条の自由や〈法の下の平等〉と私企業の財産権,営業の自由との関係を問題とすることによって,ひいては日本の資本主義の枠やあり方をも問題とするものであった。

 1963年東北大学法学部を卒業し三菱樹脂株式会社に就職した高野達男は,3ヵ月の試用期間の終了する直前に,身上調書に記載すべき点が記載されていないこととその思想が会社にとって好ましくないことを理由として本採用を拒否された。高野は,同年9月,地位保全仮処分を東京地裁に申請し,本採用拒否が憲法14条1項,労働基準法3条に反し無効であるとの決定をえた。仮処分決定後も就労拒否などの扱いを受けたので,同人は労働契約関係の存在を確認する本訴を起こし,第一審の東京地裁は,67年,本採用拒否を解雇権濫用にあたるとした。第二審の東京高裁は,68年,思想・信条の自由は憲法14条,19条で保障されており,思想・信条のゆえに通常の商事会社がただちに事業の遂行支障をきたすわけではないから,それについて申告を求めそれを理由に差別することは公序良俗に反し許されないとした。最高裁は,73年,(1)基本的人権規定は私人相互関係には及ばない,(2)企業者は憲法22条や29条によって営業の自由・雇用の自由を保障されており,原則として思想・信条を理由として雇入れを拒み,それについて調査し申告を求めることができるなどを判示しつつ,原判決には法令の解釈適用の誤りとその結果審理不尽の違法があるとして,これを破棄し原審に差し戻した。差戻審の東京高裁で,76年3月11日,和解が成立した。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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