三道(読み)さんどう

精選版 日本国語大辞典 「三道」の意味・読み・例文・類語

さん‐どう ‥ダウ【三道】

[1] 〘名〙
① =さんこう(三行)〔礼記‐祭統〕
② 大学寮における紀伝、明経、明伝の三つの分野。また、明経・明法・算道の三つの学問総称
※中右記‐元永二年(1119)八月三日「三道博士着南床子
③ 東山道・東海道・北陸道のこと。
聖徳太子伝暦(917頃か)上「太子奏曰。八方之政。以使知之。願遣使三道。以察国境
④ 仏語。
(イ) 三悪道(地獄道・餓鬼道・畜生道)のこと。
※建長五年版往生要集(984‐985)大文四「我所有三道、与彌陀仏万徳、本来空寂、一躰無礙」
(ロ) 惑・業・苦の三つ。衆生が迷いの生を繰り返していくことを、煩悩とそれから起こる行為とその結果生ずる苦との三つの上でとらえたもの。
※真如観(鎌倉初)「一切衆生の身の中の、煩悩業苦の三道(ダウ)
(ハ) 仏道修行の三段階である見道・修道・無学道をいう。
(ニ) 意業の三悪すなわち、貪・瞋・邪見をいう。
※十善法語(1775)八「貪嗔邪見を三道と名づく」
⑤ 兵家(へいか)で、正兵奇兵伏兵の総称。
⑥ 能を作る上での三つの過程。世阿彌の用いた語で、種(素材を見いだすこと)・作(構成をねること)・書(詞を書き曲をつけること)をいう。〔三道(1423)〕
[2] 能楽論書。世阿彌元清著。応永三〇年(一四二三二月次男元能に伝授した。能の作り方を種・作・書の三つに分析して論じた伝書。通称能作書。

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デジタル大辞泉 「三道」の意味・読み・例文・類語

さん‐どう〔‐ダウ〕【三道】


三行さんこう」に同じ。
律令制大学寮に設置された3学科。明経みょうぎょう明法みょうぼう算道
兵家で、兵を用いる三つの方法。正兵奇兵伏兵
仏語。
㋐「三悪道」に同じ。
のこと。輪廻りんねを、煩悩とそれによる行為と、その結果としての苦との三つでとらえたもの。
㋒仏道修行の三段階。聖者の位の見道修練を積む位の修道しゅどう、学ぶべきもののなくなった位の無学道
意業いごうの三悪。貪・しん・邪見。
世阿弥が説いた、能を作る場合の3要素。種(素材)・作(構成)・書(作詞作曲)。
世阿弥の「能作書」の別名

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「三道」の意味・わかりやすい解説

三道
さんどう

世阿弥(ぜあみ)の能楽論書。1423年(応永30)、次男の観世元能(もとよし)に与えたもの。『能作書』ともよばれるとおり、能の作品の作り方について詳述した伝書。三道、つまり種(しゅ)(素材)、作(さく)(構成)、書(しょ)(作詞)を能作の出発点と説き、三体(老体・女体(にょたい)・軍体)の基本のジャンルから鬼に至る能の書き方、演者に当てはめた能の作り方、開聞(かいもん)・開眼(かいげん)(山場)の設定の仕方が語られている。新作の規範とすべき能の曲名があげられ、演技においても能作においても、幽玄という美意識を貫くべきことを結論としている。

[増田正造]


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