不二一元論派(読み)ふにいちげんろんは

改訂新版 世界大百科事典 「不二一元論派」の意味・わかりやすい解説

不二一元論派 (ふにいちげんろんは)

インド哲学の主流を成すベーダーンタ学派中の最も有力な,シャンカラ(700ころ-750ころ)を開祖とする学派。サンスクリットアドバイタAdvaitaと呼ばれる。この派の哲学的立場は不二一元論(アドバイタバーダadvaitavāda)といわれ,ウパニシャッド梵我一如思想を踏まえ,宇宙の根本原理ブラフマンは個人の本体であるアートマンとまったく同一であり,ブラフマンすなわちアートマンのみが実在し,それ以外のいっさいは無明またはマーヤー(幻力)に基づき,あたかも幻影のように実在しない。その大綱は,〈ブラフマン実在,世界虚妄,個我即ブラフマン〉と簡潔にまとめられている。シャンカラには多くの弟子がいたと推定されるが,スレーシュバラパドマパーダ,ハスターマラカ,トータカの4名が知られ,スレーシュバラとパドマパーダが後代に大きな影響を与えた。シャンカラの後継者たちの間では,彼があえて明確な性格づけを避けた無明(アビドヤーavidyā)の問題をめぐって二派に分かれるが,その一つはビバラナ派である。この派はパドマパーダの《パンチャパーディカー》に対して,13世紀ころプラカーシャートマンが書いた注釈《ビバラナ》に由来し,長い間不二一元論派の主流を形成した。今一つは10世紀ころバーチャスパティミシュラがシャンカラの《ブラフマ・スートラ注解》に対して書いた復注《バーマティー》に基づいたバーマティー派である。伝説によれば,シャンカラは生存中に四つの僧院(マタmaṭha)を建立したといわれるが,それらの僧院を中心にして,今日もなお,シャンカラの思想的伝統は断絶することなく受け継がれ,シャンカラを奉ずるこれらの人々はスマールタSmārtaと呼ばれ,ヒンドゥー教一派であるスマールタ派を形成している。とくにシュリンゲーリの僧院は,総本山として南インド,とくにカルナータカ州を中心に有力である。近年になって,カーンチープラムの僧院もタミル・ナードゥ州を中心に大きな勢力をもつにいたっている。
ベーダーンタ学派
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「不二一元論派」の意味・わかりやすい解説

不二一元論派
ふにいちげんろんは

インド哲学の主流をなすベーダーンタ学派中の一派。ベーダーンタ学派は、その根本聖典『ブラフマ・スートラ』の解釈をめぐって、シャンカラ(700ころ―750ころ)を開祖とする不二一元論派、ラーマーヌジャを開祖とする被限定者不二一元論派など多数の学派を生むが、それらのうち不二一元論派がもっとも有力であるばかりか、現在もなおインドの知識階級のもっとも代表的な思想を形成しており、伝統的な学者の80%はこの派に属しているといわれ、今日スマールタ派といわれるヒンドゥー教の一派の中核をなしている。不二一元論派の僧院はインド各地に存在するが、総本山は南インドのカルナータカ州シュリンゲーリにあり、タミル・ナド州のカーンチープラムの僧院も有力である。この派の哲学的立場は不二一元論(アドバイタ・バーダAdvaitavāda)といわれ、ウパニシャッドの梵我一如(ぼんがいちにょ)の思想を踏まえ、宇宙の根本原理ブラフマンは個人の本体であるアートマンとまったく同一であり、ブラフマンすなわちアートマンのみが実在し、それ以外の一切(いっさい)は無明(むみょう)またはマーヤー(幻力(げんりょく))に基づき、あたかも幻影のように実在しないと説く。その大綱は「ブラフマン実在、世界虚妄、個我即ブラフマン」と簡潔にまとめられている。シャンカラの後継者たちの間では、重要でありかつ困難な問題を含む無明(アビディヤーavidyā)の問題をめぐってビバラナ派とバーマティー派に分かれた。

[前田専學]

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