中江丑吉(読み)ナカエウシキチ

デジタル大辞泉 「中江丑吉」の意味・読み・例文・類語

なかえ‐うしきち【中江丑吉】

[1889~1942]中国学者。大阪の生まれ。兆民の長男。北京在住約30年。中国古代思想史などを研究。著「中国古代政治思想」など。

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精選版 日本国語大辞典 「中江丑吉」の意味・読み・例文・類語

なかえ‐うしきち【中江丑吉】

中国学者。兆民の長男。北京に長く住んで中国古代政治思想などの研究にあたった。主著に「中国古代政治思想」「公羊伝(くようでん)の研究」。明治二二~昭和一七年(一八八九‐一九四二

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「中江丑吉」の意味・わかりやすい解説

中江丑吉
なかえうしきち
(1889―1942)

大正・昭和期の中国学者、思想家。中江兆民の長男。東京帝国大学法科大学卒業後、1914年(大正3)袁世凱(えんせいがい)の顧問有賀長雄(ありがながお)の秘書として北京(ペキン)に赴き、永住した。19年の五・四運動の際、旧知曹汝霖(そうじょりん)の命を救ったことは有名。このころより中国古代思想史の研究に傾注し、その研究は西園寺公望(さいおんじきんもち)や満鉄の援助を受けて進められたが、他方カントヘーゲルマルクス精読し、潜行中の片山潜や佐野学(まなぶ)らを助けた。中国革命の協力者鈴江言一(げんいち)も中江薫陶を受けている。日中・太平洋戦争中、近衛文麿(このえふみまろ)首相や多田駿(しゅん)支那(しな)方面軍司令官らの招請を断り、市井の一生活者としての立場を固守し、日独の敗北を予言していたという。厳格な科学的合理主義とヒューマニスティックな批判的精神はまさしく兆民を継ぐものであった。死後に著書『中国古代政治思想』(1950)や、『中江丑吉書簡集』(1964)などが出ている。

[和田 守]

『阪谷芳直・鈴木正編『中江丑吉の人間像』(1970・風媒社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「中江丑吉」の意味・わかりやすい解説

中江丑吉 (なかえうしきち)
生没年:1889-1942(明治22-昭和17)

中江兆民の長男として大阪に生まれる。1914年東京帝国大学卒業後,袁世凱の顧問有賀長雄の助手として中国に渡り,その後死の直前までの約30年間を定職をもたずに北京で過ごす。1919年五・四運動のときには,親日的売国奴として攻撃された曹汝霖を助けた。この間《資本論》など社会科学書を精読しつつ中国古代史研究に従事。片山潜や市川正一らをかくまったり,鈴江言一の研究を援助したりした。日中戦争の間にも軍部に迎合せず,社会科学的現状分析によって日本の敗北を予見していた。その見識と高潔な人格を慕う者が多かった。蔵書約6800冊は〈中江文庫〉として,京都大学人文科学研究所へ寄贈された。遺稿《中国古代政治思想》(1950)がある。
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百科事典マイペディア 「中江丑吉」の意味・わかりやすい解説

中江丑吉【なかえうしきち】

在野の中国古代思想研究者。大阪出身。中江兆民の長男。1914年東京帝国大学卒業後,袁世凱顧問の有賀長雄(あるがながお)の秘書として中国に渡り,北京で生涯を送る。親日派の曹汝霖や父の友人西園寺公望らの援助のもと,独学で中国古代学を研究,カント,マルクス,ヘーゲルなどを精読。日中戦争時においては,歴史哲学的洞察力,社会科学的現状分析により日本の敗北を予見した。没後研究の成果をまとめた《中国古代政治思想》のほか《中江丑吉書翰集》など。蔵書は〈中江文庫〉として京都大学人文科学研究所に寄贈。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「中江丑吉」の解説

中江丑吉 なかえ-うしきち

1889-1942 大正-昭和時代前期の中国学者。
明治22年8月14日生まれ。中江兆民の長男。大正3年袁世凱(えん-せいがい)の顧問有賀長雄の秘書として中国にわたる。北京に永住し中国思想史を研究。市井の生活者としての立場から時代を洞察し,軍国主義日本の崩壊を予見した。昭和17年8月3日死去。54歳。大阪出身。東京帝大卒。著作に「中国古代政治思想」。
【格言など】無名より無名に没入する外なし。然しメンシュハイト(人類)の力を達識せる事は何人にも譲らず(死の床での記)

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