乗合船(読み)のりあいぶね

精選版 日本国語大辞典 「乗合船」の意味・読み・例文・類語

のりあい‐ぶね のりあひ‥【乗合船】

[1] 〘名〙
規定運賃をとり、多くの旅客を乗せて所定の航路を往復する客船近世の全国的交通網の発展で、主要河川や大坂などの大都市を中心とする瀬戸内諸港間に多く就航したが、河川用では淀川の三十石船、海船では下関渡海や金毘羅船などが代表的なもの。乗合。
※浮世草子・好色五人女(1686)一「十人よれば十国の者、乗合(ノリアイ)船こそおかしけれ」
② 二人以上の荷主の荷物を積んだ運賃積の船。積合船。
※大坂船漂着記(1849)「此度乗合船之儀は、大坂表荒荷積船に御座候に付、船中へ積入之荷品調」
③ 「ひきふね(引舟)(一)④」の戯称
※雑俳・柳多留‐六五(1814)「安芝居乗合船に日をくらし」
[2] 歌舞伎所作事。常磐津。三世桜田治助作詞。五世岸沢式佐作曲。西川巳之助ら振付。本名題乗合船恵方万歳(のりあいぶねえほうまんざい)」。天保一四年(一八四三江戸市村座初演。元来は「魁香樹いせ物語(かしらがきいせものがたり)」の名題で、常磐津・富本竹本長唄の掛け合い。初春隅田川の船に乗り合わせた万歳・才蔵・巫女(みこ)白酒売り・大工・通人・女船頭七福神の見立てで、芸づくしをする。常磐津の代表曲。

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デジタル大辞泉 「乗合船」の意味・読み・例文・類語

のりあいぶね【乗合船】[歌舞伎舞踊]

歌舞伎舞踊。常磐津ときわず。本名題「乗合船恵方万歳えほうまんざい」。3世桜田治助作詞、5世岸沢式佐作曲。天保14年(1843)江戸市村座で初演のときの名題「魁香樹かしらがきいせ物語」。初春の隅田川の渡し船に乗り合わせた人々の芸尽くし。

のりあい‐ぶね〔のりあひ‐〕【乗合船】

規定の運賃をとり、定まった航路を多くの客を乗せて運航する客船。

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改訂新版 世界大百科事典 「乗合船」の意味・わかりやすい解説

乗合船 (のりあいぶね)

歌舞伎舞踊。常磐津。本名題《魁香樹(かしらがき)いせ物語》。1843年(天保14)1月江戸市村座で12世市村羽左衛門,4世中村歌右衛門ほかにより初演。作詞3世桜田治助。作曲5世岸沢式佐。振付西川七郎次,西川巳之助(5世西川扇蔵),西川芳次郎,花川蝶十郎。初春の隅田川の渡し場で万歳,才蔵(造),白酒売,大工,通人,巫女,船頭が芸づくしの仕抜(しぬき)を踊る。初演は七福神の見立てだが,のちに多くの人物が登場。江戸風俗を描写した傑作。1866年(慶応2)4月江戸薩摩座の人形浄瑠璃《妹背山婦女庭訓》大切に,《乗合船恵方万歳(えほうまんざい)》の人形所作事が演じられ,明治にこの名題で復活上演された。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「乗合船」の意味・わかりやすい解説

乗合船
のりあいぶね

歌舞伎(かぶき)舞踊。常磐津(ときわず)。本名題(なだい)『魁香樹(かしらがき)いせ物語』。3世桜田治助(じすけ)作詞、5世岸沢式佐(きしざわしきさ)作曲、西川巳之助(みのすけ)・花川蝶十郎らの振付け。1843年(天保14)1月、江戸・市村座で12世市村羽左衛門(うざえもん)の万歳(まんざい)、4世中村歌右衛門(うたえもん)の才蔵らにより初演。初春の隅田川の渡し場で万歳・才蔵・白酒売(しろざけうり)・大工(だいく)・通人(つうじん)・巫女(みこ)・女船頭らが芸尽くしを踊るもので、とくに万歳・才蔵の洒脱(しゃだつ)で好色趣味豊かな振が眼目である。初演のときは富本(とみもと)・竹本・長唄(ながうた)との掛合いの曲だったが、のち常磐津だけになり、1896年(明治29)1月、東京・春木座以来、『乗合船恵方万歳(えほうまんざい)』の外題(げだい)が定着した。また、当初は登場人物7人で七福神に見立てる趣向だったが、その後ほかに門礼者(かどれいしゃ)・芸者・子守・田舎侍(いなかざむらい)などを適宜に配して上演することが多い。

[松井俊諭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「乗合船」の意味・わかりやすい解説

乗合船
のりあいぶね

歌舞伎舞踊曲。常磐津。本名題『魁香樹 (かしらがき) いせ物語』。3世桜田治助作詞,5世岸沢式佐作曲。天保 14 (1843) 年1月江戸市村座初演。万歳,才蔵,大工,通人,巫女,白酒売り,女船頭が,初春の隅田川の渡し船に乗合せて踊る,江戸時代末期の風俗を描いた舞踊曲。後半の太夫,才蔵による三河万歳が眼目。宝船に乗る七福神の見立てであるが,役柄・人数とも上演のたびに都合される。慶応2 (66) 年手を加えて『乗合船恵方 (えほう) 万歳』と改名。

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百科事典マイペディア 「乗合船」の意味・わかりやすい解説

乗合船【のりあいぶね】

常磐津節の曲名。5世岸沢式佐作曲の《魁香樹(かしらがき)いせ物語》を改作した《乗合船恵方万歳》の通称。新春の隅田川の渡しに乗り合わせた万歳,通人,大工らの踊りを中心とした名曲。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「乗合船」の解説

乗合船
(通称)
のりあいぶね

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
魁香樹いせ物語 など
初演
天保14.1(江戸・市村座)

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世界大百科事典(旧版)内の乗合船の言及

【水運】より

… また,水運は物資輸送が中心であったが,同時に旅人も運んだ。最初は荷物に付随して来る荷主・宰領が主であったが,そのうち一般旅人も乗船するようになり,旅人専用の乗合船も生まれた。淀川の三十石船,利根川の境,関宿船などがそれである。…

※「乗合船」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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